1年以上前から手に入れたかった本を入手しました。
 この本は、1年以上前にネット検索しても網にかからなかったのですが、先週、思い出して再度検索しますと、アマゾンのマーケットプレイスと日本の古本屋のデータベースに載っていました。
 アマゾンのマーケットプレイスには程度の良いものがなく、1冊だけ「非常に良い」レベルの本がありましたが高額でしたので敬遠し、日本の古本屋サイトから高原書店にお願いして送ってもらいました。
 良心的な価格で状態のよい本が翌日に届き、喜びました。

 しかも! 〔帯〕に見坊先生の推薦文があったのです。
 これを「お宝」と言わずして何と言いましょう!!

--ここから




診断・国語辞典

1985(昭和60)年5月30日 第1版第1刷発行

著者  鈴木喬雄(すずき・たかお)

発行者 大石進(おおいし・すすむ)

発行所 株式会社 日本評論社

定価:本体1,500円+税(古書価格1,080円+送料320円)

<帯>

国語辞典の構造と体系にメスを入れる

「尊敬=とうとびうやまうこと」「尊重=とうとび重んずること」と言い換えただけで能事終われりとする辞書が多い。しかしこれでは、「何をどのようにとうとびうやまい、とうとび重んずるのか」という一番肝心のところが皆目わからない。本書は、現状に不満を持つ著者が、国語辞典の“構造と体系の問題”にまでメスを入れて解明する。

〔帯〕裏面

読み出すとやめられない本

 題を見ただけで読みたくなる本です。読み出すとやめられないのです。社会人である利用者の立場からの“診断”なので、明快・適切、専門家もかないません。しかも、批判に終わらず、対案を出しているところがすばらしい。「尊敬」と「尊重」が辞書でいかに不十分かを知るだけでも、あなたに大きなプラスとなるでしょう。見坊豪紀(国語学者)

2015(平成27)年4月22日 購入

--ここまで

 私は、見坊豪紀氏が書籍の〔帯〕に推薦文を書いた実物を初めて見ました。いやぁ、嬉しかったですよぉ!

 本書では、1985(昭和60)年当時に著者が入手できた辞書を対象として「診断」しています。
 目次の前頁「本書で調べた辞書および触れた辞書」を見ると、あまりに種類が多いので、ここでは冊数のみを紹介しておきます。

国語辞典 小型・中型・大型 25冊
和英・和独辞典 小型・中型・大型 6冊
その他の辞書 用字辞典から大百科辞典まで 9冊

 というわけで、辞書比較をしてみようという気になって、手元にある辞書の中で、本書が発行された1985(昭和60)年に近い時期に発行された辞書で、〔帯〕にあった「尊敬」と「尊重」の語釈を確認してみました。


学研国語大 二版 1988(昭和63)
そん-けい【尊敬】《名・他サ》 その人のすぐれた行為やりっぱな人格を、自分には及びがたいものとしてながめ、自然に頭を下げたくなるような、また、その人に従っていきたくなるような気持ちになること。「我々は我々の達する能わざる理想を実現し得たる人なるが故に ─ するのである<西田・善の研究>」

そん・ちょう【尊重】《名・他サ》 価値あるもの、尊いもの、犯すべからざるものとして大事に扱うこと。「人名 ─ 」「民族と民族の問題はお互の文化と伝統を ─ することなくして解決の出来るわけはないのだ<森本・女の一生>」

◆中型辞典の面目躍如です。用例も含め、語釈はきっちりと分けられています。この辞書は、読むと本当に面白いです。静かなる読書生活の楽しみ・・・とでもいいましょうか。

三国 三版 1988(昭和63)
そん けい[尊敬]〔名・他サ〕 地位・身分・能力などが自分より上の人に対して、礼儀(レイギ)正しくふるまうこと。うやまうこと。「私の ─ する人物」

そん ちょう[尊重]〔名・他サ〕 価値をみとめてだいじにすること。「人格を ─ する」

◆三国三版も、2語の語釈は区別されています。さすがです。

新明解 三版 1981(昭和56)
そん けい (0) [尊敬] ─ する 他人のすぐれた人格やりっぱな行為に接し、無条件に頭を下げ・到底自分などはかなわないと思う(出来るなら自分もあやかりたい気持ちになる)こと。

そん ちょう(オ) (0) [尊重] ─ する 犯す・(無視す)べからざるものとして、相応の扱いをすること。「他人・(少数)の意見を ─ する;本人の意志・(相手の立場)を ─ する」

新明解 四版 1989(平成元)
そん けい (0) [尊敬] ─ する その人の言動・業績の中に非凡な点の有ることを認め、自他の模範に足る存在として仰ぎ見ること。

そん ちょう(オ) (0) [尊重] ─ する 三版に同じ。

◆新明解は三版と四版では、[尊敬]の語釈が変わっています。それにしても、新明解の語釈は、あまりに個性的だったな、と感じ入りました。

角川必携 1995(平成7)
そんけい【尊敬】[1] [名] [ ─ スル] その人をすぐれていると思い、敬うこと。「 ─ の念をもつ」「 ─ する人物」(以下省略)

そんちょう【尊重】[1] [名] [ ─ スル] 価値のあるもの、すぐれたものと認め、それにふさわしくたいせつにあつかうこと。「少数意見を ─ する」「人権の ─ 」

◆角川必携は、2語の差別化はやや甘いかな?とも思いましたが、及第かとも思いました。

 と、いうわけで、「よかった、よかった」と安心したとき、「あ、もしかしたら・・・!」と、不安がよぎった辞書がありました。

新世紀ビジュアル大辞典 1998(平成10)
※朱書はブログ筆者による。

そんけい【尊敬】〔名サ〕尊び敬うこと。respect

そんちょう【尊重】
〔名サ〕尊び重んじること。respect 「人名 ─ 」「伝統を ─ する」

◆うわーっ、金田一春彦先生、やっちゃいましたねぇ!
 カラーの絵図・写真が豊富で紙質もよく、好きな辞書なのですが、語釈のための紙面が限られているマイナス面が出てしまいました。

 というわけで、鈴木喬雄氏が危惧したことの実例を発見してしまいました。

 いずれにしても、「尊敬」は人に対して使われることが多く、「尊重」は事物に対して使われることが多いことを知りました。

 ここで今日のブログを終わりにしようと思ったのですが、なんだか心配になってきたので、他の辞書も確認することにしました。

明鏡 二版 2011(平成23)
そん-けい【尊敬】〔名・他サ変〕❶その人の人格・識見・業績・行為などを優れたものとして尊び敬うこと。「私は親を心から ─ しています」「博士の業績を ─ する」「 ─ の念を抱く」(以下省略)

そん-ちょう【尊重】
〔名・他サ変〕 価値あるものとして大切に扱うこと。重んじる。たっとぶ。とうとぶ。「個性[プライバシー・相手の立場・故人の意志]を ─ する」

集英国 3版 2012(平成24)
そんけい [平] 【尊敬】〔名・他スル〕 敬うこと。「 ─ する人」

そんちょう
[平] 【尊重】〔名・他スル〕 尊いもの、侵してはならないものとして大切にすること。「人権の ─ 」

新明解 七版 2013(平成25) ※下線はブログ筆者による。
そん けい [0] 【尊敬】 ─ する(他サ) (だれヲ ─ する) その人の言動・業績の中に非凡な点のあることを認め、自他の模範に足る存在として仰ぎ見ること。

※四版と同じ語釈ですが、下線部分が加筆されました。

そん ちょう(オ) (0) [尊重] ─ する(他サ) 〔「重」も「尊」と同じく、たっとぶ意〕 犯す・(無視す)べからざるものとして、相応の扱いをすること。「△他人・(少数)の意見を ─ する/△本人の意志・(相手の立場)を ─ する」

※三版と同じ語釈ですが、下線部分が加筆されました。

岩国 七版新 2011(平成23)
そんけい【尊敬】〔名・ス他〕 他人の人格や行為を高いものと認め、頭を下げるような、また、ついて行きたいような気持になること。うまやうこと。「親を ─ する」「 ─ を払う」「 ─ に値する」「 ─ の念を抱く」

そんちょう【尊重】〔名・ス他〕 尊いものとして重んずること。「少数意見を ─ する」「人権 ─ 」「個性の ─ 」

新潮国〔現・古〕 二版 1995(平成7)
※朱書はブログ筆者による。

ソン ケイ【尊敬】 他人の人格・行動などを立派だと思い尊び敬うこと。そんきょう。
ソン チョウ【尊重】 尊び重んずること。尊いもの、価値あるものとして大事に思うこと。〔字類抄〕

◆うーむ、これは、紙面の関係でしょう。説明が付加されていますから、辞書としての質が低いわけではないと思います。

大辞林 三版 2006(平成18)
そん けい [0] 【尊敬】(名)スル ①人格・識見・学問・経験などのすぐれた人を,とうとびうやまうこと。そんきょう。「 ─ する人物」「 ─ の念」「 ─ を払う」

そん ちょう [0] 【尊重】(名)スル 尊いものとして重んずること。「他人の意見を ─ する」「人命 ─ の精神」

 久々に辞書比較をして楽しかったです。また、新明解の語釈の個性を再認識しました。
 最後にひとこと。

いやーっ、辞書って、本当にイイものですね!