今日、2つの古書店から、それぞれ辞書が届きました。次の2冊です。

『シニア英和辞典 四訂版』
1964(昭和39)年1月15日 初版発行
1981(昭和56)年12月1日 四訂版発行
1990(平成2)年 重版発行
著者  小川芳男(おがわ・よしお)
発行者 赤尾一夫(あかお・かずお)
発行所 株式会社 旺文社
定価:本体1,796円+税(古書価格748円)

『アポロ英和辞典』
1969(昭和44)年11月 初版発行
1984(昭和59)年6月  第24刷発行
編者  研究社辞書編集部編
発行者 植田虎雄(うえた・とらお)
発行所 株式会社 研究社
定価:本体796円+税(古書価格1,980円)
※外箱の表に「中学生用」と印刷されている。
アポロ英和辞典
 私が中・高校生の頃、学校から自宅の途中に小さな書店があって、下校時には毎日、立ち寄っていました。
 その書店の書棚に様々な辞書が並んでいて、当時から辞書好きだった私は、書棚の辞書を片っ端から手に取り、「前書き」を読み比べていました。
 誰に教わることもなく、「前書きを読めば、どんな人がどんな気持ちで辞書を作ったかがわかる」と考えての行動でした。
 小林秀雄も「序詞は、作者の中心思想」(『考えるヒント』35頁/文春文庫2013)と述べているくらいですから、書店で辞書の前書きを読み比べて楽しんでいたことも、あながち間違ってはいなかったと思います。

 今日のブログは、2冊の英和辞典のうち、『アポロ英和辞典』の前書きについて書きます。少々長いですが引用して紹介します。
(太字は当ブログ筆者による)
--ここから
                             ま え が き

 この辞典は中学生のみなさんの英語の学習に役立つように作られています.初歩の学習者の利用する辞典としては,高級な大辞典や虎の巻式の片片たる書物は論外としても,いわゆるポケット判辞典でも,内容を極度に圧縮して何万という語数を盛ったものは,たとえ携帯に便利であっても,あまり学習効果のあがるものではありません.
 初歩の学習にはそれぞれの段階に適した辞典------中学時代には中学用として作られた辞典------によって勉強することがもっとも望ましいのです.この辞典には,中学生のみなさんが,教科書によって英語の基本を学ぶのにぜひとも必要なことがらが,親切に説明してあります.その主要な特色には次のようなものがあります.
 1. 見出し語(約9000)を,その重要度によって4段階に分け,そ
   れを色刷り,※印などによって示しました.
 2. 発音はアメリカ式を主として,必要に応じてイギリス式のも発
   音記号によって示してあります.カナ書きの発音を添えたの
   は,発音記号を知らない人でも,これで大体原音に近い発音
   ができるようにという,どこまでも便宜上の方法で,科学的正
   確さをめざすものではありません.
 3. 語形変化は名詞・形容詞・副詞・動詞とも不規則なものはもち
   ろん,規則的なものもできるだけていねいに示しました.
 4. 訳語は 1,2,3 などの番号のあとに一括してまとめ,それに対
   応する例文を 1),2),3) のあとにそれぞれ改行してのせてありま
   す.
    また例文の中で英語の関係語句は斜字体で,それに相当す
   る日本語の部分は下線で示してあります.
 5. 訳語のあとに,必要に応じて英語の同意語,あるいは関連語
   ・反意語を示してあります.
 6. 熟語・慣用句など重要な語句は太字の斜字体を用いて,例
   文のあとに改行して示してあります.
 7. ★ を用いて,見出し語についての文法・発音・語法などの注
   意,風物的な参考事項,派生語などの説明がなされています.
 8. さし絵は110個はいっていますが,その中動植物にはだいた
   いの大きさが示してあります.
 9. 巻末には「和英小辞典」「発音の話」「不規則動詞表」が付録
   として添えてあります.
 このような特色をもった中学生用の学習辞典でありますから,みなさんが毎日の勉強にこれを十分活用していかれたならば,英語に対する興味がまし,知らず知らず学力も各方面が総合的に進歩することと信じます.
 この辞典の母体は,去る昭和36年に発行した My Junior English Dictionary と同40年の Kenkyusha's Junior English Dictionary とでありますが,これは二つとも,あの初級用辞典の傑作として名の高かった,故岡倉由三郎先生編の My English Dictionary(昭和15年初版)の系統をひくものであります.親辞典からのすぐれた特色は脈々としてこの辞典にも受けつがれて来ております.
 最後にこの辞書の編集・校正を担当された部員紀 晃一氏と永井則子氏,例文の収集および付録の和英に御尽力いただいた山形大学工業短期大学部松野良寅先生,さし絵の黒沢充夫氏,めんどうな組版にあたられた高坂幸一氏はじめ工場関係者のすべてに対して,あつくお礼を申しあげます.

    昭和44年7月
                    研 究 社 辞 書 部
--ここまで

 私は、この前書きを中・高生の時以来、40数年ぶりで読みました。書店の書棚からこの辞典を手にとって、書店のおじさんに注意されはしまいかとキョロキョロしながら読んだことを思い出し、胸が熱くなりました。
 私は、当時、この辞書を買って持っていたわけではありませんでした。近日中にブログに書こうと思っている別の英和辞書『シニア英和辞典』を持っていたからです。
 ですから、『アポロ英和辞典』とは毎日の下校途中に書店に立ち寄ったときだけの付き合いだったのです。
 今改めて前書きを読むと、この辞書は、著名な英語学者の先生が執筆したわけではなく、研究社が大切に守ってきた「3つの初学者用英和辞書の伝統」を引き継いだ辞書であることがわかりました。
 この前書きを書いた、当時の研究社辞書部のみなさんの辞書への熱い思い、辞書編集者としての矜持に、ただただ頭の下がる思いがしました。

 昭和30~50年代の教育は「受験戦争」「偏差値教育」というように、批判的な言われ方や悪い評価が多いように思いますが、当時は、学生も、学校も、辞書・参考書を作る出版社も、教育産業も、それぞれが気概を胸に秘め、熱く燃えていたように思うのは、単なるノスタルジー(郷愁)でしょうか!?