彼とは、4年付き合って、
ようやく結婚を決めた頃だった。
彼には、以前付き合っていた遠距離の彼女がいた。
もうとっくに終わった関係だと思っていた。
でも、私は知らなかった。
それが10年も続いていたこと。
そして彼女は今もまだ、
“終わっていない人”だと気づいた。
きっかけは、彼の部屋で見つけたアルバムだった。
写真には、一枚一枚、
彼女の手書きのコメントが添えられていた。
東京バナナと、
秋葉原のおでん缶と一緒に、
そっとそこにあった。
雪のように色白な彼女は、
いつだってマメで優しい人だと聞いていたけれど
本当にその通りだった。
アルバムのすべてに、
たっぷりの愛情がこもっていた。
その中に、
絶叫マシンに乗っている彼の写真があった。
私の前では「そういうの無理」って
いつも断っていたのに、必死な顔で叫んでいた。
なんだかもう、悲しいより、笑えてしまった。
そして、その隣には指輪の写真があった。
添えられた文字には、こう書かれていた。
「もらった指輪、大切にするね」
どこからどう見ても、
“今も愛されている人”のものだった。
それを見て、私はようやく理解した。
彼の中には、
ちゃんと続いていた時間があったのだと。
彼は弱い人だった。
誰に会うときも格好をつけて、
でも私の前では、
不器用で、クズで、どうしようもなかった。
その姿が、私とよく似ていた。
救えるかもしれない
そんなふうに思ってしまったのかもしれない。
ある日、彼とふたりで服を選びに出かけた。
一日かけて、色も形も季節も考えて、
彼に似合いそうなものを探した。
一緒に鏡を見て、コーディネートを決めて、
お腹を抱えて笑い合った。
その服を着て、彼は翌日どこかへ出かけた。
まさか、その服で
“彼女”に会いに行ったとは思いもしなかった。
別れるか、結婚するか。
なぜかその二択しかないような関係だった。
そして私は、彼を選んだ。
彼を愛していたのか、
彼の中に映る自分を重ねていたのか。
そのどちらも、少しはあったのだと思う。
けれど、それだけじゃなかった。
すべての理由の奥に、あの子がいた。
その頃、私のお腹には、小さな命が宿っていた。
不妊治療が必要だと言われていた私の身体に、
ふいに訪れた、まだ形にもなっていない命。
病院の帰り道、
私は空を見上げて、笑った。
走り出していた。
涙が止まらなかった。
嬉しくて泣いたのは、この時が初めてだった。
「別れた方がいいに決まってるのに」
そう思いながらも、
私の背中をそっと押したのは、
未来からやってきた小さな女の子だった。
私はこの子の声に、静かに従うことにした。
正直、彼よりも
私は、まだ見ぬ“君”との日々に、
かけてみたいと思った。
今となっては、
彼との関係は想像していた通りに終わった。
それでもあのときの私の賭けは
たしかに、大成功だった。
そして今、私はあの小さな女の子から、
見たこともない贈り物を、溢れるほどにもらっている。
世界は、不幸そうな顔をして
いつも喜びを運んでくるのだ。