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書類を確認する。
氏名、現住所、本籍地…
証人欄も新本籍地も抜けはなし。
身分証も…
うん、OK。
戸籍謄本の添付がなくなったから書類が少なくなって、事務処理が楽になったんだよな…
俺は、そんなことを思いながら…
機械のように全てのチェックを終え。
「手続きは以上です」
「おめでとうございます」
そう、言った。
幸せそうに寄り添いながら…
顔を見合わせる二人。
二人を包むピンクのオーラが暑苦しい。
てか…
「二人の世界」にいる二人には、一切見えてないと思うけど。
うしろ…
長蛇の列、なんですけど…
俺は…
窓口を退く様子のない二人に向かって、わざと大きく咳払いをした後、言った。
「…次の方、どうぞー!」
俺は市役所の戸籍課に勤務している。
今日は令和7年、7月7日。
30年ぶりに7が3つ揃う、貴重な日。
パチンコなら大当たり・大フィーバーだし…
エンジェルナンバーでは
「努力が報われ願いが叶う」なんて。
超ポジティブなメッセージが込められてるとか…
こんな貴重な日に、大切な人と家族になろうと思う人は、やっぱそれなりに多いみたいで。
俺は朝から、何枚も何枚も、婚姻届を受理し続けている。
当たり前のように、書類が受理されて…
幸せになっていくカップル達を。
仕事とはいえ毎日毎日目の当たりにすると。
やっぱどうにもこうにも割り切れないというか…
わかってんだよ?
しょうがないって。
どうしようもないって。
でもさー…
なんかおかしくない?
真面目に仕事して、税金払って。
別に誰にも迷惑かけないで…
一社会人として、普通に生きてる。
そんな俺が…
ごくごく普通に、人を好きになってさ?
その人と、おんなじ戸籍に入りたい…って。
この人らとおんなじように?
そう思ってるだけ、なのにさ…
相手とおんなじ性だってだけで…
俺みたいな、市役所の機械みたいな窓口係に…
「受理できません」
なんて、言われちゃうんだぜ?
なんか…
ホント、割り切れないんだよな…
心に刺さった小さな棘を、イジイジと触る自分。
智と生きると決めた時から、そういう書類関係の欲は捨てたはずなのに…
いつまでもどこか納得できず、駄々をこね続ける小さな自分を宥めてすかして…
俺はその日の仕事を終えた。
