大宮BL小説です。

閲覧ご注意ください。


















引っ張り上げられた勢いで、大野さんの胸に飛び込んでいる自分。

そんな自分をぎゅっと…
しっかり受け止めてくれる、大野さん。



一瞬の出来事のはずなのに。

まるで時が止まったみたいにずっと…
僕らは重なっているように感じた。



「…大丈夫ですか?」


囁かれて我に返る。


僕は一瞬で飛び退いた。



「あっ、だっ…」

「だっ、だいじょぶだすっ!」


今…
だいじょぶだすって、僕、言った?

恥ずかしすぎる。

全然大丈夫じゃないじゃん…



カミカミな自分にツッコミをいれまくりながら…
僕は、真っ赤な顔で笑って言った。




「…行けますか?」

そう尋ねられ…
自分だけがあたふたしてることに気づいて、なおさら恥ずかしくなる。

僕はまた大声で言った。

「いっ、いけます!」
「もう全然大丈夫です!」

「すみませんでした、ご迷惑をおかけして…」

「ありがとうございました!」


大野さんの肩にかかったストックバックに手を伸ばす。

でもその手は…
スッとかわされた。


「…持ちます」


「…え」


「ブースまで、俺が運びます」



そう言って…
足元のストックバックを抱えると。
くる…と大野さんは背を向けた。


ピン、と伸びた背中は…
何の迷いもなくストック庫の扉の向こうに消えた。



え…

う、うそっ!!


ストック庫の警備員さんが倉庫から出て店内に入るなんて…
見たことも聞いたこともない。


僕は涙をスーツで拭いまくって…
大野さんの後を追った。




人混みの中を、真っ直ぐ歩く大野さん。

「…失礼致します」

お客様にそう低く声をかけながら…
でも迷いなく、歩みを進めていく。

追いかけるけど人混みでなかなか追いつけない。


でも大野さんの前は…
モーゼの海割りみたいに、道が開けていく。
大野さんはあっという間に僕のブースに辿り着いた。


「大変お待たせいたしました」


そう言って…
お客様に深く頭を下げるのがみえる。


とても丁寧に…
でも、力強く。
警備員の大野さんは言った。


「すぐにお包み致しますので」

「どうか…」
「今しばらく、お待ちくださいませ」




大野さんの凛とした…
毅然とした態度。

その姿に…
あれだけグズグズ言ってたお客様が黙った。



一歩遅れてブースに戻った僕に…


「…よろしくお願いします」


大野さんはそう言った。



荷物を渡してくれる。
ポン、と…
一瞬肩に手が乗った。


ブワッと肩に全身の熱が集まる。


一瞬あった目線。
大野さんは優しく笑っていた。

大野さんの手のひらから…
何かが流れ込んでくる。


それは…
明らかに僕に、パワーをくれたんだ。


「頑張れない」

そう思った僕は、もうどこにもいない。


「あっ、ありがとうございました!」


振り向くことなく去っていく後ろ姿にそう声をかけて…

僕はまた…
包装紙と、向き合った。






あの後…

例のめんどくさいお客様から

「せっかく包んでくださったのに、やり直しさせてごめんなさいね」

と謝られただけでなく。

「何回も包み直していただいて…」
「ホントにありがとう」

お礼まで言われた。


さらには…

「…ところでさっきの警備員さん、素敵だったわーー//」
「どちらに行けばお会いできるのかしら♡」

そんなナゾの世間話までされ…

普通なら会える人ではないんだけどな…
なんて思いつつ
適当に交わしながら無事に接客を終えた。



大野さんの登場以降…

殺気立ってた贈答品売り場が心なしか穏やかに…
ちょっと色めいたような気がした。

年配の方に順番を譲ってあげるご婦人。
「まだか!」と声を荒げるご主人を「黙って待ちなさい!」と一蹴する奥様。
マニュアル通りの無機質な対応から、幾分優しいいつもの接客に戻ったパートさん達。

「あ、私急がないから」
「先にそっちをしてあげて」

ぐずる赤ちゃんを抱っこしながら、小さな兄弟の手を引くお母さんをみて…
そんな優しい言葉をかけてくださるお客様もいらして。


大野さんが運んできた…
爽やかな風は。

その場にいた全ての人を優しさで包んだ気がした。