大宮BL小説です。

閲覧ご注意ください。

















僕はプロの販売員だ。
お買い求めいただく商品はもちろんのこと…
同じものでもウチで買いたい、また来たい、そう思っていただけるような…
そんなサービスを提供するのが仕事。


でも…

必死に一生懸命…
僕にできる精一杯で、お客様に向き合っているつもりなのに…


なんでこんな風に言われちゃうのかな…



ストック庫の扉を開けたら、なんだか涙が溢れてきた。

泣くようなことじゃない。
こんなことはよくあることだ。
きっと疲れているからだ。
トイレすらいけなくて…
ちょっと煮詰まってるだけ。
だからこんなくだらないことで…
涙なんか出てくるんだ。



「失礼します…」


覇気のない声で、警備室に声をかける。

珍しく警備室は空。
多分警備員さんも忙しいのだろう。


泣いてる顔を見られなくてよかった。
そう思う半面…

見たかった顔が見れなくて、急激に悲しみが増す。
僕は奥へと急いだ。


たった一人、ストックを詰める。
こんなことで泣いている…
子どもみたいな自分が情けなくて。
涙を打ち消したくて、ゴシゴシ…と瞼を擦る。

何度も、何度も。

でも、涙はなかなか止まらない。


濡れた手の甲が、キラキラと光って見えた。



パンパンになった荷物を肩にかける。
出口を目指して歩くけど…
当然のことながら重くて…
紐が肩に食い込む。


痛い。
痛くてたまらない。

また涙が溢れた。


早く…
早く、行かなくちゃ…

こんなことでメソメソしてられない。

頑張らなきゃ…


泣きながら歩く。




すると不意に…

ぶちっと大きな音を立てて。

右肩のストックバックの紐が…
片方だけちぎれた。


咄嗟に荷物を支える。


でも、バランスを崩した僕は…

そのままがくん、と…
膝をついた。



ズルッと…
左の肩からストックバックの紐がずり落ちる。

それと一緒に…
背広もズルっと着崩れた。





座り込んだ自分を見つめる、もう一人の自分が笑っている。

「ひどいカッコ」

って…

そんな自分の笑い声に…

「もう頑張れない」

僕はそんなことを思ってしまった。



あんなに…
自分に言い聞かせていたのに。

頑張らなきゃって…
何度も、何度も…


でも、肩紐と一緒に…
僕の中の何かが切れてしまった。


僕はそのまま…
座り込んだ。




滲む向こうに…
人影が見える。

ゴシゴシ…と顔を擦る。


ハッとする。


そこには…


「お、おの、さん…」


いつも以上に険しい顔をした大野さんがいた。






大野さんはストック庫の警備員さん。

僕はこの人のことがずっと前から好きだった。


無口で…
僕がどんなに大きな声で挨拶しても…
小さく会釈して挨拶を返すだけ。


あまりにも声も小さいし。
目も合わせてくれないから…
僕は嫌われている。
ずっとそう思ってた。


でも…

今の部署に移る前からずっと…
僕がストック庫にいくと、必ず作業を手伝ってくれる。

以前のブースのストック庫は一番手前の一番高いところにあって。
取るのに脚立が必要だし。
一人での作業は大変で…
きっと見てみぬふりしづらいから、手伝ってくれてるんだと思ってた。

でも…
今は…
一番奥の、一番下。
遠いから時間はかかるけど…
でも一人でも充分作業可能な場所。

でも大野さんは…
決まって一緒に来てくれて。

何も言わず、箱を袋に詰めて…
パンパンのストックバックを入り口まではこんでくれるんだ。

僕はうれしくて、いつも…
「ありがとうございました!」って大きな声でお礼を言う。

すると大野さんは決まって…
「いえ…」
と小さく返事をして。
スッ…と事務所に帰ってしまう。


でもその耳はいつも真っ赤で。

きっと大野さんは照れ屋さんなんだろうな…なんて。

そんなことを思うだけで、どんなに忙しくても、僕はまた笑顔になれた。





そんな…
僕の笑顔の源の大野さんが…
険しい顔で立っている。


もう無理だ…と思っていたはずなのに…
そんな情け無い自分を知られたくなくて、僕は急いで顔を拭いた。


「あ、す、すみません」
「こんなとこに座り込んで…」

「邪魔ですよね」
「ホントにすみません」


ずり落ちたストックバックの手提げ紐をまた肩にもどす。
無理矢理笑顔を作る。


でも…

立ち上がれない。

なんで…
なんでなんだよ…


僕は動かない足を、グーで何度も叩いて…

泣きながら笑った。




「…荷物」


不意に大野さんは言った。


「…え?」


「荷物、持ちます」


「…あ…」


ひょい、と…
僕の肩から荷物を奪う。

一つの荷物は右肩に、
もう一つの、手提げが切れたストックバックを足元に置いた大野さんは…


スッと手を差し出した。


「…捕まって」


美しい手が…

僕の目の前にあって。


それはまるで…
僕のピンチに颯爽と現れた…
王子様の手、みたいで…


って…
いや。
いや、いや!


僕はそんな…
可愛らしいお姫様でもなんでもない。


なんでもないんだ、けど…



「だっ、大丈夫です!」


その手を取ったら…
僕のバカで邪な思いが大野さんに流れ込んでしまうような気がして。

僕はぐちゃぐちゃの顔を手のひらでこねくりまわしながら…
大声で言った。


「たっ、立てますっ!」
「自分で立ちますっっ!!」


僕は床に手をついて…
腰をあげようとした。

したんだけど…


ふわっと身体が浮き上がる。

一瞬のうちに…
僕の手は、大野さんの手の中にいて。


そのまま…
僕の身体も。

一瞬にして、大野さんの腕の中にいた。