大宮BL小説です。
閲覧ご注意ください。
智さんとは、僕がこの保育園に入職してからの顔見知りだ。
本業は自動車整備士とのことだったが、理事長のお孫さんである智さんは、行事があるたびに裏方として駆り出されているようで…
子ども達にはお馴染みの存在だった。
とはいえ僕らは…
出会えば挨拶を交わす程度で。
何か話をした記憶もなかった。
僕から話かけるタイミングはなかったし。
智さんも自ら話かけてくるような人ではなかったから。
僕らの距離が縮む気配は、一向になかった。
でも僕は…
たくさんの子ども達に囲まれてもなかなか表情を変えない智さんがふと見せる、小さな笑顔が気になって。
いつしか智さんを目で追うようになっていた。
そうすると見えてくる。
表情が変わらなくても、子ども達を見つめる眼差しには温かさがあることや…
たくさんの頭を順番に撫でる手の大きさ。
地面に落ちた小石を拾ってポケットに入れる、小さな小さな気遣いが。
優しい人だな…
そう思った時にはもう、智さんは特別な存在になっていて…
僕は密かに、智さんに恋をしていた。
こんなずぶ濡れの姿を見られるのが恥ずかしい。
僕はびしょびしょのハンカチで、顔を拭くふりをしながら…
赤らめた頬を隠しつつ言った。
「こんばんはー!!」
「ひどい雨ですねー//」
雨の音に負けないように声を張り上げる。
「…!!」
智さんの唇が動いたけど…
何を言ったのかわからない。
「…え?!」
聞き返す。
すると…
ガチャ、と、車のドアが、開いた。
「…乗って!」
よく聞こえない。
でも…
乗れ、って、言ってる?
「あ、いや、でも…」
「ずぶ濡れなんで、シートが…」
「いいから!」
「そんなことはどうでもいいから…」
「とにかく、乗れ!!」
…多分、そう言ったと、思う。
僕の願望が幻聴を呼んだのかもしれなかったけど。
僕は言われるまま…
助手席に、乗り込んだ。