『俺はバーテンになりたいんだ』。とA君は(かりにA君とします)、私に向かって照れくさそうに、しかも真剣な眼差しで答えてくれた。
今年のゴールデンウイークは、コロナウイルスの影響で、4日間、必要な用事以外、家から出ず自粛していた。その時、15年ほど前に半年ほど指導したA君のことがやたらと思い出された。
A君が友達のT君の紹介で私の教室を訪れたのは、彼が中学3年生の6月ぐらいの時だった。『一応、高校だけは出ておきたい』。と友人のT君の紹介で私の教室にやってきたのだ。身長が180㎝という立派な体躯、しかも、俗に言われるヤンキーそのものであった。今まで、全く勉強をしてこなかったと言うだけあって、小学生の算数もままならないという状態であった。ただ、彼は、見かけとは違って、物腰がとても柔らかな話し方をする生徒であった。そんな彼に『将来どんな仕事がしたいの?』と、私は聞いた。すると『俺はバーテンになりたいんだ』。と言う答えが返ってきた。
『バーテンダーか?・・・。それじゃ色々なことを知らないといけないな。バーに来るお客さんの話にしっかりと耳を貸し、話を合わせないといけないからね』。『覚えることもいっぱいあるし、お金の計算もできないといけない』。と、勉強のほかに、雑学の本を貸し与え、加えて、毎回、新聞のコラムを読ませて、彼の感想を聞いた。そして私の考え方も伝えた。そんな繰り返しの中からA君は着実に内面的な成長をしていったように思う。
また、そんな彼が勉強に身が入らないときは、『お前、将来、何になりたいんだっけ?』などと激励した記憶もある。
こんなこともあった。夏期講習会のある日、教室の前に如何にもヤンキー風といった風情の男の子が一人やってきたことがあった。大学生のアルバイト講師(卒業生)が、『○○先生(私のこと)、外にヤバそうな生徒が来ている』。と私に知らせてきたのだ。
私は、その生徒に対して、『うちの生徒に何か用事があるのか?』と聞くと、『Aを待っている』。と答えた。『A君は、今、真剣に勉強しているから・・・。』と言い、帰るように促し、『頼むからA君の勉強の邪魔をしないでくれ』。と頭を下げた。彼は、『わかった』と一言だけ言い教室から帰っていった。
勉強は2年半のつけがあったのか、A君は、成績が上がることなく、しかし、人間的に成長して札幌近郊の公立高校へと進学していった。ときよりT君から、『A君は、高校に入ってから学校に内緒で居酒屋のアルバイトをやって家計を助けている』。(彼は母子家庭だった)という、噂を耳にした。
今、A君は30代の前半になっているはずである。彼は、夢をかなえるために飲食店で修業をしているか、ひょっとしたら『夢をかなえて』BARのマスターにでもなっているかもしれない。と私は思うのである。
コロナウイルスの影響で、札幌の飲食店は『自粛』により店を閉じている。そのほとんどが、『自分の店を持つ』という、それぞれの夢をかなえて頑張っている人たちだと思う。皆、必死になって働き、国に税金を納めているのだ。しかし、国は彼らの生活が成り立つだけの支援をするつもりはないような気がしてならない。
学校も、そのほとんどが休校している。生徒たちは生活と心のバランスを乱し、殆どの生徒たちは、規律ある生活をしているとは言えない。やれ『オンライン授業だ』とか『大量の宿題だ』とか『9月の入学だ』などと、生徒不在の空論を交わしているが、子供たちは純粋な目で確実に大人たちのすることを見ている。
国が、しっかりと国民に寄り添い、『国民の生命・生活・財産・安全・・・』を守ってくれるかどうかを・・・。そして、コロナウイルスが終息した時、信頼できる国になっているかを・・・。子供たちの夢を壊すようなことだけは・・・。
『負けるなA君、頑張れ!!』
For Ingrid 『And So It Goes(そして今は・・・。)』作詞・作曲 Billy Joel
You Tube 歌 Jennifer Warnes https://www.youtube.com/watch?v=7jVmW41LOMM
どんな人の心の中にも 部屋があって
それは強固で安全で 聖域になっている
それは過去の恋人との 心を癒すためなんだ
新たに恋人ができるまでのね
僕は君に慎重に話した 君はそんなことをかまわず 答えてくれたね
それでも僕は話過ぎたと思っている
僕の沈黙は 自分を守ることだったのに
バラを持つときはいつも 僕は棘しか見ていなかったようだ
でもそんなものだよね そうなってゆくよね
君もすぐに そうなってゆくと思うよ
だけど僕の沈黙が 君を遠ざけるなら
それは僕の最悪の 失敗になるだろう
だから君にこの心の部屋に来てほしい
君ならこの心を 壊したっていい
だから僕は 目を閉じていよう
僕が今まで見てきた すべてを思い描くために
そんなものだよ そうなってゆくよね
君はそれが分かっている 唯一の人なんだ
もし君といることを 僕が選べるのなら
もちろん僕に 選ぶ権利があったらだけど
でも君にはまだ 決める権利があるよね
君ならこの気持ちを 壊したっていいのさ
そんなものだよね そうなってゆくよね
君はそれをわかっている 唯一の人なのだから
※Jennifer Warnesの『And So It Goes』を聴いたのは、札幌のオーディオ専門店が毎年主催して行う2001年のオーディオショーの時です。このオーディオ展示会は、JBLなどの一流メーカーがホテルの1フロアーをブースで仕切り、それぞれのメーカー自慢のオーディオを聴かせるというイベントです。確か英国のLinn(リン)のブースでかかっていたものです。曲が終わった後、あまりにも美しいこの曲のCDを手に取って、手帳にメモしました。数日後、タワーレコードで直接アメリカから取り寄せてもらいました。Billy Joelの曲はどの曲も歌詞が難解で哲学的でさえあります。And So It Goesの邦題は「そして今は」となっていますが、「そんなものだよ」とか「そんな風に時は過ぎてゆくものさ」といった感じでしょか。最初にこの曲がスピーカーから流れてきた時は、あまりの美しさに鳥肌が立ったことを思い出します。コロナウイルスの自粛で心が擦り切れた時は、美しいこの曲で癒されてくださいね。
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