10、流れ星を願った夜
ホームステイが始まってから、健康のため散歩を始めたというママに誘われ、夕食のあと一緒に近所をひとまわりするのが日課となった。
雨であれ風であれ、歩かない夜はなかった。
亜熱帯気候地域であるゴールドコーストは、3月から5月が秋である。
日が落ちると気温はぐっとさがった。
ーもう少し厚手のものを買わなきゃだな…
とぼんやり考えながら、私はTシャツのうえにはおった薄い上着の襟元をたぐりよせた。
日本にいたとき、星というものは見上げた先はるか上空にあるものという感覚しかなかったのだが、ここではちがっていた。
晴れた夜に歩けば、私達をとりまくすべてが清楚にひかり輝いている。
やはり地球は宇宙のなかにあったのか、と、まるで自分の魂が星屑に混じる浮遊物になったような心地であった。
ゴールドコーストにきて、いちばんに感動をおぼえたのはこの空の大きさだ。
おなじ球のうえにいながら、なぜこうも空の占める割合がちがうのか。
高層ビルが少ないからか、もしくわ起伏のはげしい山などに視界を遮られないからか。
自分なりに分析などしてみるものの、空をながめるたび不思議な気持ちになった。
おだやかに流れるママとの時間にあまり会話はない。
時折、
"It's windy tonight"
(今夜は風がきついわ)
とか、
"So many stars"
(すごい星ね)
とかいうくらいのものであった。
ゆったりとしたママの歩幅に合わせながら、顎で放物線をえがくように星空を半周見わたした。
ひときわ美しく輝き駆ける銀の群れ。
いまだかつて七夕の夜でさえ見たことのない、見事な天の川である。
"Milky Way...so beautiful"
とママはいった。
そうか、ミルキーウェイというのかとぼんやりそれを繰りかえした。
"Milky Way..."
ふとママは立ち止まり、こうささやいた。
"I'm wishing to see shooting stars"
彼女の表情がまるで無邪気な少女のようで、おもわず私も、いますぐ星よ流れてくれないかと願っていた。
しかし夜空は静寂のまま。
一年のなかで最も星の美しい季節のことであった。
つづく
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