スマート・スマート(5) | BLOG MYSTERY NOVELS

スマート・スマート(5)


題「虚構の迷路」



 雨に打たれたポスター。
 水滴を染み込んでは笑うモデルの笑みに
 人生の愛憎、深さを思ってしまい、
 交差点の信号が変わると同時に、

 アクセルに掛かる手を強く握りこんで、
 奥歯を噛み締める。  

 

 色々な物から逃れるように、 
 夜の底に向かって走っていく。

 

 でも自分の行き場は、疾駆する想像とは反比例して、
 ひどく近場で、怨霊を喚起させるほどにおどろおどろしい勢いで煙の上る工場の壁の前で、いつも終わる。

 

 そんな行き止まりのブルース。

 

 靴先をアスファルトに降ろして、反響させるは身体の声。
 目前にある黒碧の海に石を投げてみた。

 

 その揺らぎから、海の言葉を拾い、
 潮の香りに、数秒間酔う。

 

 層の境を、今はひどく狭める空と海とに溶けていこう。

 自然の気と輪郭を重ねるように、
 自分の原子を三日月型に、そして円形へと形状変化させていき、
 気の日食(気食)を起こす。

 

 そうやって、身体の毒素を抜いていき、
 新陳代謝をファッショナブルに回転。

 さっきより、体が軽くなったら、
 もう一つ石を投げて、
 その場を去る。

 

 いや、振り返ると、
 空にはもう一つ月が浮かんでいた。
 んっ、あれは月じゃあない。地球だ。
 じゃあ、ここは一体どこなんだ。

 また海の側を振り返る。
 すると、そこには砂丘のような世界が……。

 

 どうやら、先ほど行なった原子分解の結果。
 自分の形が距離を超え、さらに満月と符号し、
 円形をキーワードにして、互いの原子が呼び合ったのか?
 私は月面上へと立っていた。

 だから、背後に見えるのは地球なのだ。いや、そうに違いない。
 うっ、苦しい、息が……。

「ここです、人骨が発見されたのは」
「確かに、人間の骨に間違いなさそうですね」
「しかし、どうして……我々の知らない宇宙飛行士の物でしょうか」
「いえ。この死体は突如失踪した日本人K氏の物ではないかと思うのですよ。彼の手記などを見ていて、彼の謎めいた失踪を追いかけていただけ、私の本格無重力推理のカンが騒ぐのです。実は彼は、体内を原子分解するスイッチが脳にあるのではないかと妄想していたようで。色々な呪文を唱えては、脳内にあるらしき謎のスイッチを入れる周波数などを探していたそうなのです。私には理解の及ばぬ論理なのですが……彼にとっては正論への足がかりを摸索していたのでしょう」
「は、はあ」
「それら(ここでは述べられませんが)、骨格、総じて体型を始め、他にも幾つか符号する点もあります。早速地球へと持ち帰って人骨のDNA鑑定を行うことにしましょう」
 そう言うと(警視庁特別捜査官兼探偵の)百間川のエジソンこと百間川一声(ひゃっけんがわいっせい)は、スペース・ディティクティブ・シャトルへと帰還。

 数日後。DNA鑑定の結果。
 宇宙旅行中に偶然、月面にて人骨の発掘に遭遇した名探偵「百間川のエジソン」の推理は正解に到った。
 その栄誉に対して、国際警察から、特別賞が授与されることとなった。


 しかし、百間川のエジソンを書いている作者は、何故か生きている。
 しかし、それは気のせいかもしれない?

 百間川のエジソンと、作者K(薫葉豊輝)が途中で入れ替わっていたら、この文章は百間川のエジソンが書いていることになる。つまり(過去を振り返った)自伝だ。

 果たして私は誰なのだろう?
 誰であるかさえわからなくなってしまった。


 と、(最近パズル・ミステリから離れがちなだけに)パズルの国で遊んでいる私なのであった。
 事実、私、薫葉。

 何故ならば、これが百間川のエジソンの自伝であるならば、

 この2005年の現時点で、一般人の宇宙旅行など到底不可能。