スマート・スマート(6)
題「黒いメロディ」
髪の毛の一筋に、想いのルフランを込めて迷路(パーマ)。
優しく撫でる度に、芳香漂う裸体のメロディ。
指先でその黒い迷路をかきあげて、背中へと垂らした瞬間。
背に、数千本の黒蜘蛛の手足、
そして黒糸が垂れる。
黒のメロディに支配された世界。
黒蜘蛛は女の背中を徘徊し、
風の旋律に合わせて右へ、
そして左へ。
気が付くと、それは果てなく伸びていて、
隣人の手足に絡もうとしていた。
糸のダンスで狂おう。
蜘蛛の糸が、五線譜の如く不気味な音を奏で始める。
これは女の飼う蜘蛛の悪戯なのか?
そう、蜘蛛に問うてみた。
蜘蛛は答える。
「なにをおっしゃられます。これは単なる、女の髪でございまする」
錯覚の段々畑で遊んでいた瞳の奥が、ひくりとUPーDOWN。
そこで私は、女の後ろ髪を、衝動的に引っ張ってみた。
鳥獣のような叫びを上げる君。
次の瞬間であった。
お、女の髪の毛は、白髪へと変化を遂げていたのである。
黒から白へ、一瞬の間に起きた七変化。
彼女の髪の毛は、見事に色を変えた。
それを機に私は、
人の髪の毛を白く変える奇術師となる道を選んだ。
その専門家となる道を(依頼あれば伺いますと書いた名刺を手に)。
が、この白髪の奇術師の(現場に)残す「白紋」を追いかけ、
とうとうこの廃墟ビル地下に設けたアジトまで突き止めてくれた男を今、
私は前にしている。
そう、奴だ、探偵業を営む百間川のエジソンという気障な帽子野郎。
もはやこれまでか。
しかし、目の前の若い気障野郎の言葉を前に、
最後の最後で私は観念することとにした。
理由は簡単。
奴の言葉にひれ伏せられたからだ。
まるで、犯罪者を撲滅する正義の十字軍気取りの男一人の台詞に説得されたことは、
恥ずべきかもしれないが、おそらく私にも焼きが回ったと言うことだろう……。
「白髪の奇術師。この指揮棒を手に街頭に立って振り、
今まで白髪にしていった女たちのメラニン色素を活性化させるんだ。
何故ならば、この指揮棒には、メラニン色素を作るチロシナーゼという酵素と、色素細胞を活性化させる香りと波長を出す機能を持たせてある。
だから、これを振り続ければ、髪の毛に、黒い色素を取り戻させられるはず。
が、皆の髪の色素を活性化させ、白く染まった色を、元へと戻すには時間がかかるだろうが、
それもお前の道。
長い時間をかけて、大菩薩峠を歩いていくことで、
己の犯した罪を、償っていくんだ。
そう、それがお前の第二の人生のはずだ」
との言葉に、私は、ひれ伏せられてしまったのだ。