連載小説「線路へと散った黒い華」第一回 | BLOG MYSTERY NOVELS

連載小説「線路へと散った黒い華」第一回



「線路へと散った黒い華」
                        薫葉豊輝


 作者の言葉。


 作中に登場する駅長の友人の証言(駅長に関する情報)と、駅長の妻の証言。そして、作中に登場する某女性の住むマンション前に住む住人の目撃証言。

 これらには一切、嘘偽りはございません。よって、この証言に関すると疑わず、正確な情報として受け止めてくださいませ!



 鳥取県鳥乃市を走る、鳥乃線「秋華駅」へと到着した鳥取県警捜査一課強行犯二係に勤務する私、嶋山九美・二十七歳は、最近吹けが悪くなってきた赤いアクセラのエンジンを切って、真っ白い駐車場の地面へとロングブーツを置いた。
 鳥居を思い起こさせるような赤一色の「秋華駅」へと駆け寄り、改札付近で見覚えのある顔に遭遇。
「君、ここは立ち入り禁止だ。出ていきたまえ」
 制服警官に追い返されている様子の、二十代半ばに見えるサラサラ・ヘアの青年。白コートに身を包むその姿を見た瞬間、私の声は黄色がかってしまった。
「J様。J様じゃ、ありませんか」
「ネ? いや、もしやあなたは、九美さん?」
「覚えてくれていましたか、嶋山九美です」
「アンニョンハシムニカ」
「アンニョンハシムニカ」
 私は、憧れていた懐かしい友人と再会した喜びで、胸がいっぱいになってしまった。
「警部補。嶋山警部補。この方は、お知り合いでいらっしゃいますか」
 改札の向こうに立っている金沢巡査が、私の側へと駆け寄ってくる。
「ええ。この方は、警視副総監の義弟の、ジェイ・ハイドさんよ」
「あ、あの、去年副総監とご結婚されたミス韓国にもなったエリート医ジェイ・リーさんの弟さんでありましたか。こ、これは失礼いたしました」
「いえ。お気になさらないよう」
 そう、彼こそ、韓国警察の誇る頭脳と呼ばれた伝説のキャリア刑事ジェイ氏を父に持つ韓国籍の探偵。
 実は、彼も刑事をやっていたそうだが、自身の出された「警察改革案」が会議にて却下されたことを機に警察を退職。その後、日本へと渡り、探偵事務所を開業した異色の人物。
 さらに、女医でありながら、一昨年のミス韓国にも輝くという特異な経歴を持つ彼のお姉様が、日本の警視副総監とご結婚までされたので、警視庁ではちょっとした有名人なのだ。
 で、何故に私が彼のことをJ様と呼んだり、警視庁の噂に詳しかったりするのかと言うと、実は私は、大学時代に韓国に留学していた際、この甘いマスクのJ様と会っているのだ。その時、ある事件に巻き込まれた私は、彼に助けてもらってからのファン。
 そして、警視庁の内実に詳しい理由は、単にこの春まで警視庁勤務だったから。今は故郷でもある鳥取県警本部で刑事をしているわけだが。でも、思わぬところでJ様と再会するなんて、ちょっとぉ、ドキドキ!
「でも、どうして、鳥取に」
「いえね。たまたま旅行に来ていたんですが、ホテルから赤色灯が見えたもので。何か事件ではないかと」
「J様。やっぱり性分なのかしら」
「どういうわけか、事件とは縁深いですね」
「そうだ。では、J様。よろしければ、あなたに捜査協力をしていただこうかしら」
「よいのですか」
「ええ」
 私は、J様をエスコートするポーズを取って、改札を潜った。
「コマッスムニダ。九美さん、では、お言葉に甘えさせていただきますね」
 改札を入ってすぐ、金沢巡査にJ様の身分と班長でもある自分の判断により、J様を現場に入れることを皆に伝達してくれるよう頼んだ私は、ホームに残る足跡に目を留めた。
「これね。駅長が落下直前に残したという足跡は」
「そうであります、警部補」
 同班の若い私服刑事である東巡査部長から、敬礼をもらう。
「東君、ご苦労様。じゃあ、状況を説明してくださる」
「はい。では説明いたします。今夜、お一人でここへ勤務されていた駅長の平山さんが、何らかの原因でホームから線路上へと転落死したのが、本件のあらましなのですが、警察医の検死によると、死亡推定時刻はおそらく、午前零時半から午前一時に絞れるのではないかと」
「現時刻が午前二時だから、ちょうど一、二時間前ね。それで、第一発見者は」
「午前一時五分にここを通過した貨物列車の運転手です」
「なるほど」
 私は、警察手帳に、事件のあらましを軽くメモする。他にも二、三点、質疑応答をしながら。
「九美さん、ここに残る足跡の深さ。二重に踏まれた様子でもなさそうですし、駅長さんは、やはりお一人で線路へと転落したようですね。だけど、何故?」
 さっきまでは掛けていなかった眼鏡を掛けているJ様が、首を傾げながら私を見る。
「さすがですわ、J様。観察がお早い。でも、確かに自殺にしては、不自然ですね……」
「何故、この場所でという≪WHY≫の問題について、僕には理解しかねます……」
 J様は、片手を頬に当てて、そうつぶやく。
 五、六センチほど積もった雪のホームの上に残る足跡。
 改札の軒下には複数の足跡が残るが、改札から駅長の転落地点までに残る足跡はただ一つ。
 さっき、東刑事から聞いた情報によると、靴のサイズは、駅長の靴と同サイズだったことは確認済みであり、雪の降雪時刻は前日の午後十時から午前十二時半まで。

 つまり、雪の止んだ午前零時半から発見時刻である午前一時ぐらいに死亡時刻が絞られるという計算なのである。
 ちなみに、ここに停車する最終電車は、午後十一時五十分。
 その際に乗り降りした乗客の足跡は降雪によって消えてしまったというわけである。
 もちろん、ご遺体の状態から検死した死亡推定時刻の割り出しの方も、ちょうどその時刻と符号したからこそ、警察医は、その時刻を指摘したことは、忘れてはならないが。
「やはり、駅長は自殺よ」
「九美さん。それはどうだろう。駅長さんがホームから飛び降りる視点に立って、僕は考えてみようと思うんですが、どうしてもその心理に迫れない……」
「どうして」


 つづく。


(この作品は、原稿用紙換算枚数計45枚の作品です。それを今後、何回かに渡ってお送りしていこうと思っています)