なんどもなんども角度を変え
「んっ…ふ」
ちひろの舌を絡めとり、すべてを喰らい尽くそうとする激しいキス
ドアに背中を預けているのに、身体が痺れて膝から崩れ落ちそうになる
「待って、もう」
ちひろはギブアップ、と言わんばかりに彼の胸に手をついた
「…っ」
周は名残惜しそうに唇を離し、ふたりを繋ぐ銀色の糸を親指で拭う
その仕草は、女から見てもドキッとするほど艶めかしい
頬を真っ赤に染めたちひろの耳に、掠れた声が落とされた
「せっかく盛り上がったのに…悪いんだけど、すぐに帰らなきゃいけないんだ」
「どういうことですか?」
そもそも今夜、ちひろのマンションに周が現れたこと自体が不思議だった
「タバコを買いに行くって言って、家を出たから」
周は相変わらず、信じてもらう気がない嘘をつく
「タバコ、吸わないですよね?」
吸ってるところを見たことがないし、彼の体からタバコの匂いがしたこともない
「なんていうか、虫の知らせってやつ?ちひろが危険な目にあってる気がして。意外と勘がいいんだよ、俺」
「ハルくんは危険人物じゃありません。もしかして、わたしのこと見張ってたんですか?」
「違うって!ほんとに偶然、近くに来たから寄ってみただけ」
「水上さん、嘘つかないと死んじゃう病気なんですか?」
ちひろに言われるまでもなく
嘘で固めた自分の言葉に心の底から嫌気が差したが、今はまだ真実を話せる状況にはない
「ごめん」
「いいですよ、今日だけ特別に信じてあげます」
ちひろは背伸びして、うつむいた周の頭を優しく撫でた
「だからほらっ、早くお家に帰ってください」
笑顔のちひろに見送られ、静まり返ったマンションの建物から出ると
「きみ…」
さっき追い返したはずの、春翔が駐車場の入り口付近に立っていた
「あんたさあ、ちひろをどうするつもり?」
春翔は周に近寄ると、鋭い目つきで問い詰める
「奥さんにバレたら、アイツもタダじゃ済まないってわかってんの!?」
おそらくは
ちひろが周の妻に訴えられる、と言いたいのだろう
「きみには関係ない。そっちこそ、ストーカー行為は犯罪だって知ってるか?」
周も負けじと、1年近く前にちひろと別れた春翔に釘をさす
「ちひろは遊びでつきあう女じゃない、って言ってんだよ」
「遊び?」
高級車の運転席に乗り込みながら周が笑った
「遊びじゃない、本気だよ。それから、人の女を呼び捨てにするのはやめてくれないか…気分が悪い」
バタンと車のドアを閉めると、周は静かに闇の中へと走り去った
つづく↓
