3月14日

「俺はいつからデリバリー要員になったんだ?」

ちひろのマンションから戻った拓海は、そんな皮肉を言いながらソファに座って俺を睨んだ

「ちひろの様子は?元気にしてたか」

「さあな、テンションは低かったけど良くわからん。そんなに気になるなら、自分で行きゃあ良かったのに」

そんなことを言われても、こっちにはこっちの事情がある

「しかたないだろ、締め切りも近いんだし」

プリントアウトした原稿を拓海に手渡そうと立ち上がった時

原色のキッズバイクが猛スピードで俺の目の前を横切った

「ぶーん、ぶん、ぶん」

暴走車は迷うことなく、ソファの拓海めがけて突進する

「あっ!こらっ、やめろクソガキ!なあ、こいつのどこが風邪こじらせてるって!?嘘もたいがいにしとけよ先生」

そう、紗良が体調を崩しているというのは真っ赤な嘘

数日前に電話した時

ちひろが突然『責任は取りますから、卒業までそばにいさせて』と言い出した

俺がついてる嘘のせいで、彼女に大きな罪悪感を持たせている 

その現実が悔しくて、涙が止まらなくなった 

自分勝手もいいところだ


しかも

スマホ越しとはいえあんな醜態を晒しては、しばらく顔を合わせられない

せっかく準備したホワイトデーの贈り物すら、拓海に届けさせるという有様だ

「そんなに好きなら本当の事を話しちまえよ、小娘に」

ソファからデスクチェアに避難しながら拓海が言った

「言えるわけないだろう、就活中の大学生に2歳児の母親になってくれ、なんて」

「なんでよ?思ったんだけど、このクソガキに必要なのは、ああいうお淑やかな母親なんじゃねえの?」

「お淑やかっていうのはちょっと違うな、ちひろはああ見えて…」

ふっと、腕の中で首をのけぞらせて喘ぐ彼女を思い出して口を滑らせそうになる

「なるほど、ベッドの中ではすごいわけね」

拓海はそれを見逃さず、下品な笑みを浮かべて俺をからかう

「子どもの前で変なこと言うな」

「だからさ、このままじゃ紗良がレディースになっちまうって言ってんの!おまえと激甘なジジババじゃ、まともに育てられんだろ」

「レディース?令和にそんな生き物は存在しない」

「いるかもよ、な?」

いつのまにか、拓海は紗良を抱き上げ肩車して遊んでいたが

「あっ、やめろ!クソガキ」

紗良はキャッキャッと喜んで、男の髪を引っ張り始めた



つづく↓