周に香水をもらった翌日
ちひろは疎遠になっていた高校時代の友人たちと集まっていた
賑やかなイタリアンレストラン
懐かしい顔ぶれ
誰がいま幸せなのか、不安なのか、恋をしているのか
会話の端々に他愛ない嘘や見栄が混ざっていて、それが大人になった証拠のようでおかしかった
「ちひろは、浮いた話ないの?」
「ううん、全然!」
ソーダ割りを持つ手がかすかに震えたが、なんとか笑えた
周との秘密の夜は誰にも触れてほしくない
皆の話に混ざりながらも、どこか心は遠いところを漂っていた
その時
「うちの院長、若い看護師と不倫しててさ」
短大を出て病院事務の仕事をしている佳奈の言葉に、ちひろの表情が凍りついた
「えっ、やっぱあるんだ?そういうの」
「奥さんとかにバレないの?」
友人たちは興味津々で、佳奈に詳細を聞きたがる
「それが、バレちゃったんだよ先月!奥さんが病院にまで乗り込んで来てすごい騒ぎになったんだから」
「へぇ、バカだよね男って」
「女も女だよ。奥さん裏切るようなやつは愛人なんか簡単に捨てるに決まってんじゃん」
ちひろは胸が痛くなり、相槌を打つことさえ出来ずにいた
「どうしたの、ちひろ?元気ないね」
「ごめん、ちょっと飲み過ぎちゃったみたい。悪いけど先に帰るね」
割り勘の料金を支払い外に出ると、夜の街をあてもなく歩き始める
駅とは反対方向だと気づいたのは、見知らぬ公園の前にさしかかった時だった
「なにやってるんだろ、わたし」
周との関係もそうだ
人の夫とセックスをするのは、窃盗と同じこと
妻の座を奪うつもりがあるとかないとかは関係ない
公園のベンチに座り、ちひろはスマホを片手に迷っていた
周との連絡はLINEのみ
会える日時を、数字で送ると決めていた
通話は絶対にしないと言い張ったのはちひろの方だ
でも
別れを告げるとしたら、直接話をするより他にない
LINE画面の通話ボタンをタップしようとした、その瞬間
着信を知らせるメロディがちひろの手元で鳴り響いた
「えっ!?」
電話をかけてきた相手は、周だった
つづく↓

