私は転勤族だったが、定年後は札幌に定住するつもりでサッサとマイホームを
建ててしまった。
というのも、私にとって、札幌という街は、両親の実家があり、物心ついたころから、
いとこたちに囲まれて大学卒業まで育った居心地の良い特別な土地であった。
まー不思議なもので、両親の実家は札幌にあるといったものの、実は、私の
祖父、父とも転勤族で、私の生まれは、両親がたまたまその時の赴任地であった
オホーツク海に面した地方都市である。
転勤族の息子は転勤族になるのは血筋か?どなたかご存じありませんか?
さて、一方で、「転勤」の方はどうなっていたかというと・・・
運よく?札幌支店転勤を拝命した以後、これ幸いと、我が社、札幌支店の
御厚情あふれる「転勤のオススメ(=強制命令)」を、「やれ、子供の受験と
ぶつかる」やら「親の体調がよくない、時々自宅に引き取ってメンドーを見ている」だの
あることないこと、ないことないこと、屁理屈こね回して、拒み続けて、
気が付いてみれば、札幌勤務は10年ほども続いていたであろうか?
それが昨年3月・・・
さすがに、10年もゴネまくっていたせいなのだろう?
もうすぐ新年度をむかえようとしていた折、最後通告というべき転勤命令がついに出た・・・
本社人事部のコワモテがやってきたのだ・・・
「カラス君、親御さんの心配もわからんではないが・・・」
ときりだされ、
君ばかり特別扱いのよーになっているでしょ?
人事部のメンツもあるのよね?!
札幌にいたかったらいてもいいけどね、子会社出向ということに
させてもらいますヨ。
給料は今までの「6X(60%支給)でボーナスは出来高払い。
モチロン、ギョーセキ不振なら、<ゼロ・ボーナス>もありだよ。
それが嫌なら、こっちのゆーことも聞いて、たまには動いてよ。
いーポストよーいするからさぁ・・・
たとえばね、中部空港から特別車(”μスカイ” のこと)だと約30分、
準急で約50分乗ると名鉄の名古屋駅(=新名古屋駅)に着くわけ・・・
さらに近鉄に乗り換えて急行で約1時間。**支店があります。
君は今度からそこの支店長さんだ。
本店格でいうと「部長補佐か部次長」だよ。
給料は今の・・・えーと・・・◆号俸◎号給だから・・・127%か・・・
休日は週休2日+そのほかに自由に月々+2日・・・
年次休暇は10+勤務年次x2。君は勤続23年?24年?
だから年休は56か58日。
どーぉ?
これがね、50歳過ぎると、いくらスキルがあっても、ウチの場合
新陳代謝と称して、よほどユーシューでないと、会社に残れないわけ。
つまり、若い連中に、チャンスを与えようと、年長の人たちには
出向なりなんなりしていただくのね?
でね、今、君、動くでしょ?えーと・・・6月で46歳か・・・
ウチの幹部クラスの転勤スパンは5ー7年・・
ま、50歳になってすぐは会社から追い出されないよね・・・
ーあまり急なお話で何とお返事してよいやら・・・
ただ、お恥ずかしい話ですが、住宅ローン、子供の学費、親の医療費を考えますと
給料ダウンは痛いですね・・・
でも、人事掛さんのお示しした支店、休日が多すぎませんか?
今後、お前は窓際族だぞってことですか?
それも困りますが?
いや、困惑やら、不安があるのは、とー然、ごもっとも!!
ただ給料は今の27%上乗せだって言ったよネ?
そこの**支店が暇かドーカは別として
窓際族にそんなキューリョーだす会社ドコにありますか?
ーあ、そっか?
あの、家に電話してもイーですか?
おっ!奥様と即決ソーダンですか?
いーでしょー!どーぞ!!
ーもしもし、あ、おれ。
かくかく、しか鹿、猪ー鹿ー蝶。
・・・
え、いくなら、俺だけ?
三重まで単身赴任?
子供たちの学校と親の病気・・・
俺が一人で行くブンはいいんだな?給料も増えるし・・・
よし、話決めるぞ!
ぢゃな!!
ーこの話、お受けします。
早速必要な手続きを・・・
ちょっと、待ってね。
奥さんと、なんかケンカ腰だったね・・・
1日、2日、考えなくていいんですか?
或は、奥様についてきていただくように説得するとか?
こちらも急に持ってきた話ですからね。
それくらいは待ちますよ・・と言っても4-5日かな?
ーいえ、モー決めてしまったので!
私の決心が鈍らないうちに話を進めていただけませんか?
それって意地になっていないですか?
後で損をした。
あの人事掛うまいことばかり言うのでのせられたけど
給料が下がっても札幌にいるべきだった・・・
は、なしにしてくださいよ・・・
ーそれほど、ヒキョーな人間ではないと思っていますが・・・
いや、これは失敬、失敬。
では、こちらも電話させていただきますよ。
もしもし、人事ですか?
カゲユ・ゴンノヒョウエ・キンモチ・タカスエ(勘解由使権兵衛公望孝標)ですが・・・
札幌市支店のカラス君、例の話受けてくれましてね・・・ええ・・・
今しがたです・・・これからどーしていただくのがいいか?・・・
うんうん・・はいはい・・一時支度金ね・・・ここの引継ぎと、向こうの着任日・・・
それってもーきまってるんでしょ?
後任者を3/25迄に札幌に・・・カラス君には三重に4/5から着任していただく・・・
支度金は、本社から、カラス君かカラス家の口座に・・・ふんふん・・・
移動の交通費は支度金から出して頂く規則・・・
今それだけ話しておけば大体いいよね・・・
はーい、どーもありがとー・・
え?名乗るときフルネームはうっとーしーから、
イーカゲンやめてくれって・・・
善処しておきます。
今の電話聞いていて大体の段取りわかりましたね?
ーあの~・・・
はいはい、カラス君、君の一番の質問わかりますよ!
顔に書いてありますからね!
私の名前でしょ、えー、本名ですよ・・・
フルネームで名乗った方が、周囲がかしこまることに学生時代気づいて以来、
なるべくフルネームで自己紹介なりなんなりしております・・・
いや、今は、そんなことはどーでもよくてですね~、君もヒトをノセルのがウマイ!!
あ・・・それで、引継ぎの人間が札幌に来る日が 3/25、君の転勤先着任日が
結局単身赴任ですか?4/5までにお願いします。
それから、うちの会社の支度金は
課長から部長級までは「航空機10、鉄道1の法則」の適応
*航空機分 新千歳空港→中部国際空港まで フライト時間(分)÷本数x10
=100分÷14本x10=71.4
*鉄道分 キロ数÷そこまでの最上級優等列車の1時間当たりの頻度で割った金額
名鉄/最優等列車=μスカイ2本/hr=48.3km/2=24.1
近鉄/最優等列車=急行3本/hr=37.3km/3=12.4
で君の場合の支度金は、71.4+24.1+12.4=110.8万円(税込)
この90%支給なので99.7万円、後は源泉徴収
ーこんなにいただけるんですか?
悪くないでしょ?
転勤者に心変わりさせたくない配慮も入ってんのよ・・・
ー(本社人事はやはり手ごわいな・・・)
早速準備に取り掛かります
#や、これは「カゲユシ」さん、しばらくでしたな!!
シテンチョーさん、「カゲユシ」は武士の役職名!人の姓は・・・
#そーそー、長い年月の間に「カゲユ」に変わってしまったのでござったな!
いや、口調までは存じ上げませぬぞ。
ところで、例の件、カラス君から承諾いただいたので、当支店から頂いていきますからな!
#例の、三重の支店ですな。
カラス君、いーお話ぢゃないか!そりゃ、札幌から見れば小さい街かもしれんが・・・
あの大近鉄の急行電車が停まるんだ。街はそこそこの大きさだよ・・・
私も、若いころ、出世の登竜門とかで3年程行っとったが、温暖、風光明媚、山紫水明、3x4=12,
まだまだ日本も捨てたもんぢゃないと思ったね・・・
そーだな、もっとも、古い時代だがな・・・
ま、いずれにせよ、君なら本社の期待にそえる仕事をしてくれると思ーとるよ、うんうん・・・
ーーーといったやり取りから早ひと月。
私は、家族と一緒に新千歳空港に来ていた。
ニョーボはあの日から、態度は日々軟化して、今では、やっぱり私も行けばよかったかしらなどと
いってくれるようになったのだが・・・
社宅は食事つきの独身寮を契約したのだ。
それに子供にはそばに母親がひつよーだとイチオー強がりを言って、結局単身赴任が決まった。
で、例によって例のごとく、手荷物検査のところで家族と別れた私は、航空チケットの
今や、当たり前になりつつある「タッチ & ゴー」の”QRコード”の四角いマークを
眺めていた。
<おぉ??>
この「タッチ & ゴー」のQRコードの横にYH専用という文字が赤く浮き出ていたのに気づいた。
・・・こんなの見たことないな・・・始めからあったかなー?・・・
それとも今まで気が付かなかっただけだろうか・・・・??
案の定・・・
「お客様、お客様の便は758便(*)ではなく758YH便と申しまして、
お荷物検査もこの下のフロアになります。
1ー5番検査口にお入りくださいますか?」
(*)758便=決してナ・ゴ・ヤ便のひっかけではありません(うそつけ!!)
ー758と758YH便とはどう違うのですか?
どーフロアを分けているのでしょうか?
「お客様、申し訳ありません。弊社の幹部からは、そのことは社内機密と教育されて
おります。
そういった細かく重要なことまでは、私どものような末端の社員は伝えて
もらえないのです。
ドーカご容赦ください。お教えできることは何もないのです。お気の毒様ですが。。。」
ーいや、ありがとう、あなたのせいじゃないことが分かっただけでもすっきりしました・・・
私は、漠然とした不安を抱えながら
<YHフロアご利用のお客様はこちら>の指示に従い、エスカレータでさらに1フロア
降りて進むと、やや濃いグレイの上下制服の係員がいて、荷物検査を行っていた。
◆一応チケットの提示をお願いいたします。
あ、758YH便でございますネ?どーぞそのまま中にお進みください・・・
ー検査はないのですか?
◆YH便のお客様の特権でございましょー・・・
ー無愛想だが親切な係員だ。
この先もこんな係員ばかりだと良いな・・・
でも荷物検査がない航空機登場とは・・・
私は、それとは体以外の・・・第六感??・・・といったまったく別な部分で、不安が一気に
増大しているのを自覚していた。
そして、758YH便とデジタル表示された、待合フロア空間を見回すと心なしか年長者が
多いような気がするし?
子供の数が異様に少ない・・・
そのうち、
「お待たせいたしました。
これから当空港10:00発、758YH便、ご搭乗案内を始めさせていただきます。
皆さま、おひとりさま一枚ずつ、QRコードと申しまして・・・
高齢者が多いせいかQRコードの説明が長いな・・・
「中にはどうしても通過できないお客様が出て参ることがございますが、
JR北海道に見られるような、機器異常ではございません(またよけーなことを・・・)」
ーえっ??なんだそれ。聞いたことないぞ??
「ですが、ごくごくまれに間違いもあり得ますので、直ちに調べなおして然るべき処置を
取らせていただきますので、多少お時間を頂く場合がございます。
その時はどうぞご理解とご容赦のほどお願い申し上げます。」
ーなんだ、やっぱ、普通ぢゃないか・・・
「その場合の皆様の待ち時間は約2分程度を見込んでおります。
重ねての不測の事態が起こりました場合はその都度ご連絡してまいります。
どうかよろしくお願い申し上げます。」
ー点検時間が2分だって??
「それでは、お座席番号、A1からJ13迄のチケットをお持ちの方から、
ご案内させていただきます。」
ーあ、オレも、そーだ・・・列の最後でいーや・・・
ーん?通してくれない??もー一度・・・あ、やっぱり、だめだ・・・
これが、さっき言ってた、通らないことがあるってこれですか?
「お客様、遅れまして申し訳ありません。
チケット、拝見・・・なるほど・・・
失礼ですが、お客様の本籍地、あるいはご出身地は道内でしょうか?」
ーそれと、QRコードの通過と何か関係が・・・YHの色が消えかかっている・・・・けど・・・
「お気づきになりましたか・・・・
ある理由から、お客様は名古屋に向かうことはおできになりません。」
ーもっと、はっきりとした理由を教えていただけませんか?
このままでは消化不良です。
「今少しお待ちください。係がもうすぐ全員そろいます。
すべて、お話いたします。
その前に、あなた様がびっくりなさいますと困りますので、結論から
申し上げておきますと・・・」
ー今度は、QRコードのYHがの字が黒く変わった・・・
「はい、まず<YH>のチケットをお持ちの方は、その時本籍地がある空港に
おいでになった場合、他県に移動できません。
それから、<YH>の意味は” ヨ・・・"・・・・」
ー(なんとなく遠のく意識・・・)
〇親族一同がベッド周囲を取り巻いていた。
しかし、大げさな愁嘆場はみられない・・・
▽お母さん、お父さん、ずいぶん頑張ったよね。
もー、この辺で楽してもらおうよ、これ以上私たちがおねだりしたら、私たちの
わがままになるよ、お父さんがかわいそーだよ、ねッ。
▼うん、うん、
□カラスさん、私で5人目の担当医ですが、脳出血後、お嬢さんおっしゃる通り、10年以上、
よく頑張り通されました。
私の代でお見送りさせていただくことになろうとは、始め思ってもみませんでしたが、
昨年暮の肺炎から、十分、立ち直ることができなかったのが、今日の結果になったのかと
考えますと、大変心苦しい限りです。
▼いーえ、先生たちは10年以上もの間、小康状態になっても、ほかの病院に
移すようなこともなさらず、ずーと面倒を見てくださいまして、
お礼の申し上げようもありません。
それから支店長様、十年あまりの間、一応社員扱いさせていただき、
正直申しまして助かりました。ありがとうございました。
そして、主人がどこにも病院を移されないよう、病院側に、何かご配慮いただいて
いたとしか思えません。
重ね重ねお気遣いいただきなんと申し上げてよいやら・・・
#いや、最後の2年は40%支給でした。もう少し何とかしたかったのですが、
私の力ではあれが精いっぱいでした。
なんせ、彼は、1990年代の金融業の常識を覆す**システムの開発者です。
当社躍進の立役者なのです。きっと、経済界に長く名を留めることでしょう。
ホントはもっとなんとかできたはずでしたが、私の力不足で。。。
▼もったいない・・・
□いま、心肺停止となりました、**時**分、ご臨終です・・・
#奥様、カラス君の功績を称え、支店に本社幹部を招いて
社葬を行いたいのですが・・・・
▼せっかくのお話ですが、夫は10年間戦ってまいりました、
最後くらいはゆっくりウチから旅立たせてやりたいのです。
葬儀などは身内だけで行いたいと・・・
#そーですか、已むをえませんな・・・
▼ほんとに、勝手申しまして、どうか・・・ご容赦・・・・
#あ・・・あ、奥様・・・そんな堅くお考えにならないで・・・
私も、きっと同じように考えたと思いますから・・・・
▼ありがとうございます、ありがとうございます・・・
―――そのころ、道東、カラス家の菩提寺「王法憑オホーツク寺」
ーーご住職様、ご住職様と、修行僧が慌てふためいて、住職の部屋に駆け込んでくる。
ー朝からそーぞーしー、ご仏前にあるぞ!!
ーーそれがご住職職様、カラス家の方がお建てになった生前墓石ですが、ご主人様の
お名前が赤字から黒に変わっていて、横の墓標にも没年に昨日の日付が入っておりましたので・・・
ーそーか、あそこの旦那さんは、大したやり手の商社マンだったが、若いうちに脳卒中になって・・・
もう10年にもなったかのー、植物状態だったとうかがっておるぞ。・・・ついに亡くなったか・・・
我々に御報告に来てくださったのであろう。
あの御仁もついに「黄泉平坂ヨモツヒラサカ」を越えなすったか?
ーーよもつひらさか?・・・でございますか?
ーそなたも「黄泉ヨミ=あの世を指すことくらいは存じておるな?
次の「つ」は連体格助詞・所有/所属表す「つ」ぢゃ。「目の毛」だから「まなこ・の・け=ま・つ・げ」
などともうしたりする。
ヨモツヒラサカは現世とあの世の間に横たわる坂でそれを越えていったものは鬼籍に入るといった
古来よりの言い伝えぢゃ。
当寺でも枕経(通夜の前の短い読経)を執り行う。
枕経としては異例だが、遠方の方でもあるし、長く当寺に熱心にお参り頂いていた
御家族のおひとりがなくならたのぢゃ。
お道具一式出して、**と>>を呼べ。
墓前でやるぞ、急いで準備を・・・
ーーはは。
ーおそらく、枕経、通夜は終わっておるだろうから、いまさらという感じはぬぐえないのー。
いや、この歳になってもこういうことを経験して驚くようでは、わしもまだまだ修行が足らんわい・・・
タッチ & ゴー 了
なんとゆーか、うそ800000の世界のお話です。
最後までおつきあいくださいました方ありがとうございました。
「生前墓石」の記名には地方ルールのようなものがありまして、北海道では生前は赤、
没後を黒く変えるとするのが一般的となっていることを申し添えておきます。
生前に戒名を頂いた方が赤い色を使っていた事が由来となっている様です。
カラスのクンセイ 拝