(前日からのつづき)


刑事に「変なメッセージが留守電に入っている」と言われ、僕は一階に駆けおり、留守電のボタンを押した。



主夫と双子とアメリカンワイフ by  山崎 卓也

「もしもし、頼まれていた修理の仕事をしに今からそちらに伺いたいと思います。今日は大雪の予想なので、雪が降る前に仕事を終えたいのですが。電話をください。待っています」

元気のある男性の声。早口だった。中米訛り。

うちの電話には誰が掛けたかを表示する機能があり、その人物の名前と電話番号が残っていた。

「この男に電話はしたのですか?」と刑事に聞いた。

「いや、まだです。この電話が犯人の電話かどうか確証はありませんが、もし犯人の電話だったとしたら、警察が電話をすると電話登録を消されたりしてしまいます。まずは、この電話番号の所在地を調べてからにします」


う~ん、なるほど。さすがプロ。


警察の調べでは、この男は、このメッセージを残した直後、もう2回、我が家に電話をかけていたのがわかった。

「修理屋だ。今から行く」と電話をされたら、留守電にして聞いている人も返答したくなる内容だ。このメッセージを3回残した男(逹)は、我が家は留守だと確信し、侵入する事にしたわけだ。


そして、家に入る前に、家の壁の外側にある、ケーブルをすべて切った。



主夫と双子とアメリカンワイフ by  山崎 卓也

被害にあったのは、電話線とケーブルTVのケーブル。



主夫と双子とアメリカンワイフ by  山崎 卓也


綺麗に切られたケーブル。これを見た僕は、金太郎飴を思い出した。


警察は1時間ほどで帰った。

結局、犯人はなぜ僕の書斎の、しかもキャビネットの中にあるあの3段引き出し目がけて侵入してきたのかわからず仕舞い。


不気味である。TVや映画では、主人公が身に覚えのないことで誰かに狙われたりするのはよくあるが、自分の身にこんな事が起こるとは想像もしていなかった。

犯人はまた戻って来るのだろうか?

もし僕が家に一人の時にそいつらがやって来たら、逃げるべきか、それとも写真を撮ってブログに出てもらうべきか?

「こいつは厄介な事になったぜ」

僕はニコチンガムを口に放りこみ、思索にふけった。


その夜、友人家族が我が家に遊びに来た。



主夫と双子とアメリカンワイフ by  山崎 卓也

前日は僕の誕生日だったので、そのお祝い。

以前より予定していたので、そのまま決行。

シェフをしている友人(左の男性)とはもう3年リトルリーグで共に指導している。

彼は僕のために、チキン・エンチラーダを作ってくれた。


そこへ、昼間来た警官の一人が訪ねてきた。

犯人が残した留守電のメッセージを録音しに来たのだ。

そして、新たな情報を得た。


「実は、年が明けてからここ近辺の地域で既に2件、同じ手口の空き巣がありました」と警官は言った。

「お宅に残したメッセージの電話番号と名前がその2件と一致しました。過去2回とも、彼らは電話を3回かけてから空き巣を行いました。残念ながらその2回はともに成功。貴金属類を盗んでいます。2回目に襲った家は、書斎に金庫が置いてありました。恐らく、彼らはこの家にも貴金属が書斎にあると思ったのでしょう。それと、もう一つ。興味深い事実があります」と、そこまで言って、警官は一息ついた。


興味深いなどと言われなくても、どんな話でも興味津津である。

一同、かたずをのんで警官の言葉を待った。


「お宅を含めた3軒ともアジア人の住まいだったのです。最初の2軒は中国人家庭でした。3軒に共通するのは、すべて電話帳に名前が載っている事でした。犯人逹は電話帳で調べて、アジア人を狙い撃ちにしているのでしょう」

「アジア人は金持ちだと思っているからなの」とベッツィーが質問した。

「恐らく。そして、なぜ犯人が何も取らなかったかがわかりました」

「うちには何もなかったからでしょ」と言って、ベッツィーが笑った。

「いえ。犯人は家中を探すつもりだったのです。事実、他の2軒ではそうしています。彼らは取らなかったのではなく、取れなかった、もっと正確に言うと、取る時間がなかったのです」

来た来たっ。ついに僕の出番だ。

「それは、ベッツィーが早く家に帰ってきたからだ!」と僕は名探偵気どりで、今となっては当たり前の事実をさも得意そうに大声で指摘した。

「ベッツィーさんが帰って来たのを見張り役が見つけ、すぐに作業を切り上げ、逃げたのでしょう」と警官が補足した。

「じゃあ、私が家に帰った時は、まだ家の中にいたかも知れないの?」

ベッツィーはお化けでも見つけたように驚いている。

「それはないと思いますが、ギリギリのすれ違いだった可能性はありますね」

「でも、私はどの車ともすれ違わなかったし、人も見かけなかったわ」

「それは今でも謎ですね」と警官は肯定した。

不思議な事に、新雪に覆われた我が家の周りには、足跡が全くなかったのだ。そして、指紋も全く取れなかった。

「まあ、しかし、これで、旦那さんが狙われていないのがはっきりしたわけですから」と警官は僕を見て言った。

そうだ、そうだ。やはり、僕は僕の知っていた僕だったのだ。ああ、よかった。

「捜査は続けるんでしょ?」とベッツィーは心配顔で聞いた。

「もちろんです。また何かわかったら、すぐにお知らせします。じゃあ、お食事中、申し訳ありませんでした。みなさん、よい週末を」

警官は丁寧にそう言ってから、我が家を去った。



主夫と双子とアメリカンワイフ by  山崎 卓也

友人夫婦が持って来てくれたテラミスのバースデーケーキ。ジーニィが歩き出すと、皆が「Happy Birthday」の大合唱を始めた。


お馴染みの笑顔に囲まれて、僕はロウソクを吹き消した。


空き巣犯は、貴重品はおろか我が家の笑顔さえ盗めなかったようだ。


Takaya


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