リオとジーニィが車から降りて、バス停へ向かった。
ジーニィが途中でピタリと止まった。
彼女は、カバンを芝生の上に置き去りにして、僕の所に駆けてきた。
「お父さん、お皿は?」
「そんなもん、ないで」
「あ~ん」と、ショックを受けるジーニィ。折角、早起きして仕上げた宿題を家に忘れて来たのだ。
時計を見ると、8時2分。
バスはもういつ来てもおかしくない。家までは車で1分と少し。
「じゃ、取って来るわ。間に合わんかも知れへんで」
「うん」
急いで車をUターンさせて、家に向かった。
やれやれ、今日は朝から大変だ。
双子が今日提出の宿題を昨夜の内に終える事が出来なかった(前号参照)。
僕はいつもは7時20分くらいに一階に下りるが、今日は7時に下に行った。
「おっ、頑張ってるな」
「おはよう」と二人が手を休めずに答えた。
ジーニィの宿題は白い紙皿に好きなレストランで食べた料理の絵を描く事。
昨夜、ペイントをべったり塗ってしまったので、今朝まで乾くのを待つ破目に。
今、描いているのは、アイスクリームの上に乗っているチェリーとチョコレートソース。
リオの宿題は、読書感想文。昨日は最初に読んだ本の内容がわからず、急きょ読みだした2冊目の本について感想を書いている。
スクールバスの時間が迫っており、さすがに二人とも無駄口を叩かずに集中している。
「できた~!」とジーニィが言った。
え?
この黄色く塗っただけのがマカロニ&チーズ?
完璧主義者のジーニィとは思えない手の抜きよう。
まあ、しかし、ここは、「終える事に意義がある」としよう。
え?そんな格言はない?
「あっ、ジーニィ、算数するの忘れてた」
「何ぃ~?間に合うんか~?」と僕。
一難去ってまた一難。
幸い、プリント1枚だけだった。さっさと片付けるジーニィ。
そして、リオは・・・
「できたよ~」と、眠そうな顔で苦心の作を見せる。
「エライ!さあ、さっさと飯食うて、歯みがいて、行こ!」
あれから丁度1分後、僕は、家の前で車を止めて、土間代わりに使っているランドリールームに飛び込んだ。ジーニィのお皿が床の上に転がっている。
ガバッと掴んで、車に飛び乗った。
シートベルト警報の音をピーピー鳴らせながら、僕はバス停まで急いだ。
最終コーナーを曲がったところで、バスが見えた。
扉は閉まっている。
外に子供は誰もいない。
まずい、バスが動き始めた。
50m先からブーブーと警笛を鳴らしたら、バスが止まった。
子供を送りに来た親達が、何事かと一斉に僕の方を見る。
皿をつかんで、バスに向かって走り出したら、バスの扉を押し広げて中からジーニィが飛び出してきた。
「お父さん、ありがとう!」と、ちょっと荒い息でそう言うと、ジーニィはバスに舞い戻った。
ずっと窓から僕が来るかをハラハラしながら見ていたんだな、と悟ると胸がキュッと締め付けられる思いがした。
ほんの5分前の事なのに、「間に合わないかもしれない」と言って家に戻る僕に、
「うん」と真っ直ぐに答えた彼女の潔良さを思い出し、やけにいとおしく思えた。
宿題一つを取りに行くだけの仕事だったけど、娘の期待にちゃんと応えられたのが、何だかとても嬉しかった。
Takaya
今日も、ようこそ我が家においで下さいました。
勉強するのが子供の本業なら、宿題させるのは主夫の本業ですね。
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