「私が日本語を教えている高校で、生徒達が日本語劇をするんだけど、見に来ない?」
友人にそう言われて、ふと考えた。
僕はアメリカにもう20年以上も住んでいるが、今だかつてアメリカ人が演じる日本語劇を見た事がない。よし、これは一見の価値がありそうだ。
黙っていた僕に友人が付け加えた。
「劇の審査員になってくれたら、お弁当が出るわよ」
何だ、それを先に言ってくれれば、何も渡米20余年の歴史を回顧する必要もなかったのに。
「お弁当の中身は何?」とは勿論聞かずに「はい、参ります」と返事した。
今日がその劇のある日。慣れない道を2,3度迷いながらも、弁当につられて何とか到着。300人位入りそうな小奇麗な劇場。客の入りは4分の1くらい。
最初の劇は、「12匹の動物。」
この劇のお陰でどういう訳で干支がネズミ、ウシ、トラ・・・の順番になったかがわかった。舞台中央にいる神様役の男の子が大声で熱演していた。
次は「ねずみの嫁入り」
娘の婿探しの為にこの世で一番強い者を探す夫婦。雲に婿になってくれと頼むが、雲は自分を吹き飛ばす風の方が強いからと断る。日本語の台詞の後に、ナレーターが短く英訳をつけ足すようにしていた。
これは「一寸法師。」彼の小ささを強調するときだけ人形になるという苦心のアイデア。人形を手にひざまづいている女の子が一寸法師。彼女の日本語は流暢で、沢山ある台詞もしっかり覚えていた。審査員はベストアクターを1から5番まで選出するのだが、僕は彼女を2番に選んだ。右端の侍は「オヤジ」の味をよく出していて、笑わせてくれた。
今度は、「さるかに合戦」
カニに意地悪をした非礼を土下座して詫びるサル達。この劇が一番アクションが多かった。カニの横歩きやウスの体落としが多いに受けていた。
「かさ地蔵」
凍える地蔵に自分の傘をかぶせるおじいさん。ゆっくりとした動きや悲しさを内に秘めた演技は見応えがあった。ベストアクター三番手に選んだ。地蔵のコスチュームが決まっている。
「かぐや姫」
若者達の衣装と冠が劇の雰囲気を盛り上げていた。
「ジョン万次郎」
彼の伝記を読んで感銘を受けた生徒が書いた劇。舞台中央が万次郎。彼を演じた子が僕の選んだベストアクター。子供の頃の万次郎を演じていたが、立ち居振る舞いが実に少年らしく、元気一杯で好感が持てた。
演者は総じて英語訛りの強い日本語だったが、それを跳ね飛ばすに十分なパワーで熱演していた。2時間弱の上演だったが、全く飽きる事はなかった。
こちらで長く暮らしていると、「日本人として嬉しい」と思う事がめったにない。「日本文化に育まれて生きてきた自分を幸運に思う」とでもいう気持ちだろうか。
いつの間にか自分が異文化にどんどん同化してしまい、自分の中のどこまでが日本のもので、どこからがアメリカのものかがわからなくなってしまうからなのか。
今日、ニューヨークの郊外にある一高校で、沢山のアメリカ人生徒が日本語を勉強し、長い台詞を覚えてまで劇をしてくれたのを見て、久しぶりに「日本人として嬉しい」と思う事ができた。また、大変だったろう今日の劇の準備と、日頃から彼らへの日本語教授に携わっていらっしゃる同朋日本人の先生方の存在をとても頼もしく思った。
生徒の皆さん、そして先生方、今日はどうもありがとうございました。太平洋を渡った一寸法師は日本の誇りです。
Takaya
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