近頃、予約制の食事が魅力の観光列車が増えている。
JR四国の「伊予灘ものがたり」、しなの鉄道の「ろくもん」、京都丹後鉄道の「くろまつ」などだが、昔の食堂車とは異なる点がある。それは、食事を地元の定評ある店舗に任せる点である。
観光列車は主に土曜休日のみの運転だから、小規模の鉄道会社が、自前で調理施設や腕の良い料理人を確保するのは、無理が出てしまう。その点、地元の名店に委託すれば、様々なメリットがある。
《鉄道会社側》・・・施設や人材への投資が不要で、ハイレベルな料理の提供が可能。
《レストラン側》・・・地元だけでなく、全国的に知名度が上がる。予約制だから、毎週安定した注文と収益が得られる。
↑「伊予灘ものがたり双海編」の「レストランからり」による料理
「伊予灘ものがたり」では、「ヨーヨーキッチン」「レストランからり」「レストラン門田」「プチ.パリ」の4つの店から、予約制の料理が提供される。
運行日する日は、半年以上前から決まっている。台風で食材が入荷しなかったら、一部の料理を別の食材に変更する、くらいは許されるにしても、運行する日に、「今日は料理できませんでした」なんてことは、絶対に許されない。遠くから、予約して来てくれたお客をガッカリさせるしし、鉄道会社側にも大きな迷惑をかける。
だから、料理を担当するレストラン側は、かなり覚悟が必要だと思っていた。私は仕事で友人の結婚式に行けなかったこともあれば、病気で寝込んでいて同僚の葬儀に行けなかったこともある。その立場からいうと、仮に店の関係者に不幸があっても、店を休みにくくなるわけだから、覚悟が必要になるわけだ。
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すでにご存じの方も多いと思うが、料理を担当する店舗の、とてつもなく凄まじい覚悟を、見せつけられたニュースが報じられた。
えちごトキめき鉄道の観光列車に「雪月花」がある。食事と乗車料金の総額が14800円と高価だが、人気が高く、満席の日が目立っていた。
その観光列車「雪月花」で、午後の列車で食事を提供するのは、江戸時代から続く名店「鶴来家(つるきや)」だ。糸魚川駅の近くにある老舗割烹の店だ。
この「鶴来家」だが、昨年12月の糸魚川の火災で、店舗が全焼してしまった。200年近く続く老舗が、調理場も全焼してしまったのだ。
ひとつの店舗だけでなく、全国的なニュースになった大火だから、予約した乗客も納得してくれるはずだ。午前便の別の店の料理を出すとか、当面運休するのもやむを得ない状況だろう。というより料理を出せるわけない状況だ。
ところか、鶴来家は、主人の自宅に仮設の調理場を作って、提供したそうだ。以下、「新潟日報」より↓
老舗の味、弁当で再開全焼の料亭
リゾート列車で提供 糸魚川大火で全焼した老舗料亭「鶴来家」が8日、えちごトキめき鉄道(上越市)が運行するリゾート列車の弁当の提供を約半月ぶりに再開する。被災を免れた主人の青木孝夫さん(66)宅の敷地に仮の調理場をつくり、営業再開へ一歩を踏み出す。
鶴来家は約200年前の江戸時代に創業したとされる。旬の食材を生かした料理が評判で、トキ鉄のリゾート列車「雪月花」で出される3段重ねの和風弁当を提供してきた。
火災が起きた昨年12月22日、青木さんは「店は被災したが自宅が無事なので弁当だけでも続けたい」と話していた。青木さんはその夜、トキ鉄に「弁当を出したい」と連絡した。
雪月花で出すのは、被災前とほぼ同じメニュー。今のところ、ベニズワイガニのちらしずしやタイのサンショウ焼き、南蛮エビのこうじ漬けなどを入れる予定だ。
青木さんは5日、糸魚川市役所を視察に訪れた伊藤忠彦環境副大臣に弁当を手渡し「(弁当提供を再開する8日に向けて)頑張りたい」と意欲を語った。
http://www.niigata-nippo.co.jp/news/national/20170106300438.html
弁当を提供した日の記事はこちら↓
http://www.niigata-nippo.co.jp/news/national/20170108300870.html
火災の日の夜に、「店は焼けたが弁当は出したい」と連絡する凄まじさには、驚かされた。
私は今まで何度か、「この仕事は40度の熱が出ようと家族が死のうと絶対最後までやりきる」くらいの強い覚悟を持って取り組んだ案件があった(そんなに回数は多くないけど)。
この鶴来家のご主人は、普段から強い覚悟を持って、仕事をしていたのかと思うと、ますます雪月花に乗って、鶴来家の料理を食べたくなってしまった。往復交通費を含めると約3万円は、痛いけど。
