(東京新聞より)
会社の不正を告発したら5000万円請求された 「正しいことをしたのに」残業代まで差し押さえられた元社員
会社内の不正を告発したら、会社から5000万円を請求された──。医療機器メーカーに勤務していた50代男性が、会社幹部による贈収賄事件を裏付ける社内資料を持ち出し、警察に提供したところ解雇されたうえ、裁判所に提訴された。一審は男性の主張を認め支払いを免れたが、会社側が控訴。3日に東京高裁で二審の判決を迎える。男性は「負担が大きすぎる。正しいことをした人が、人生を壊される。告発者を守る社会に」と願う。
◆会社が医師にわいろ「患者・国民の負担増える」
「通帳を見たら、未払いの残業代の約1200万円が支払われたと思ったら、直後にほぼ同じ額が裁判所に差し押さえられていた。会社の嫌がらせのようだ」
社内資料を持ち出した情報漏えいを理由に、医療メーカーから約5000万円の損害賠償を求め提訴された元社員の加藤豊さん(活動名)は、そう嘆く。差し押さえられたのは、会社から2024年7月に提訴される前に、裁判所が仮処分を認めたからだ。
加藤さんが勤務していたのは、白内障手術用の眼内レンズを販売してきた「スターサージカル」(旧スター・ジャパン、東京都港区)。スター社の幹部ら5人は自社のレンズを優先的に使ってもらう見返りに公立病院の医師に現金を渡したとして大阪府警が2023年6月に、贈賄容疑で書類送検。収賄容疑で書類送検された奈良県内の市立病院の男性眼科医は、大阪地裁で有罪判決を受けた。
これは氷山の一角で、業界団体「医療機器業公正取引協議会」の調査で、スター社は全国の68病院の計75人に総額約2100万円を配っていたことが明らかになった。
大阪府警に情報提供していた加藤さんは「看過することができなかった。医師にお金を払う分は、製品の価格に跳ね返る。結果的に医療費が増え、患者負担、国民負担が増えることになる」と説明する。
◆呼び出されたのは「不自然な」社内会議
加藤さんは2016年に経理担当として誘われ入社。「定年まで働くつもりだった」という。暗転したのが2018年10月の社内会議だった。参加したのは経理の課長だった加藤さんと、営業や人事総務担当の幹部ら計4人。これまでにない組み合わせで、「不自然な」会合だったという。
議題になったのが、医師に現金を渡して自社のレンズを売り込むためのスキーム。医師に自社のレンズを使った手術を撮影した動画を提供してもらう見返りに、病院を通さず医師に直接、現金を渡すことだった。
「お金はちゃんとドクターに払われることは明確になっている」
「リスクもあることは理解している。ただ現実の学会、業界の慣例上、大きなリスクとは考えられない」
「国公立(に所属する医師に現金を渡すことを)やらなきゃいいもんね。みなし公務員型の病院以外だったらいいもんね」
◆「お金を出す立場からは無理です」と反対したが…
加藤さんによると、幹部からは、国公立の病院の医師に現金を渡した場合、贈収賄の可能性を認識しているかのような発言が次々と飛び出した。顧問の弁護士事務所から「クロに近いグレー」との意見をもらったことも報告されていた。スキームは2019年4月以降に始まり、1人の医師で年間3、400万円を渡しているケースもあった。
経理担当の加藤さんは、人事総務の幹部に対し「お金を出す立場からは無理です」と反対したが、この幹部は「業務命令に反対すれば、人事的措置がある」と脅してきた。
内部では自浄作用が働かないと考え、警察に告発することを決めた。2021年3月の警視庁を手始めに、現金を配布した医師が在籍する医療機関がある都道府県警10カ所以上に情報提供を続けた。最も関心を寄せたのが大阪府警だった。
警察からは関連資料を求められ、加藤さんはひそかに会社が保有するデータベースにアクセス。医師との契約書や現金を渡した記録など直接的に事件に結び付く機密情報だけでなく、周辺情報などを含め数百点の資料を記録媒体に保存して持ち出していった。
◆解雇されたが…持ち出しは「違法ではない」と認める判決
会社は、内部資料に基づいた報道もされたことから「犯人捜し」を始め、加藤さんがデータベースにアクセスしていたことを特定。それを理由に2022年10月、加藤さんを解雇した。
その上、加藤さんが機密情報を含めた資料を持ち出したことで、顧客との信頼関係が崩れ損害を受けたなどとして東京地裁に加藤さんを提訴した。
だが、東京地裁は2025年12月、公益通報者保護法に基づき「情報持ち出しの違法性は阻却される」として、加藤さんの主張に軍配を挙げた。判決は、加藤さんについて「犯罪を公にする強固な意志があった」と認定。贈収賄事件と関係ない資料を持ち出したことについても「違法性を認めることは相当ではない」と、免責を広く認める画期的な判断を示した。
とはいえ、訴訟の負担は重い。会社幹部らは、会社のカネで弁護士を雇い訴訟を戦うことができるが、加藤さんは、弁護士費用など百万円単位の身銭を切るしかなかった。いわば、「竹やり一本」で戦うしかなかった。
法は、会社が公益通報による損害を理由に賠償請求することを制限するが、公益通報の該当要件が厳しく、加藤さんのように訴えられるケースも少なくない。
加藤さんは「生活しながら訴訟を抱えるのは負担が大きい。会社が嫌がらせするためのスラップ訴訟としか言いようがない。会社にペナルティーを科すような歯止めをかけてほしい。自分のような被害者が出ないようにしてほしい」と強調する。
東京新聞はスター社に「スラップ訴訟ではないのか」や事実関係について問い合わせたが、「コメントを差し控えさせていただく」とした。
◆12月に法改正…通報者の解雇・懲戒には刑事罰も
会社や役所で不正を訴えた人を解雇や懲戒から守る仕組みを強化する改正公益通報者保護法が今年12月に施行される。公益通報者が不利益をこうむらないよう改善は進むが、課題は残されている。
今回施行される法改正の柱となる変更点が、刑事罰の導入だ。公益通報を理由に通報者を解雇、懲戒した場合、個人に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には3000万円以下の罰金が科せられる。また、公益通報から1年以内の解雇、懲戒は公益通報を理由とすることを推定すると規定し、民事訴訟になった際の通報者の負担を軽減している。
とはいえ、公益通報と認定されるにはハードルがある。通報した不正行為が500本ほどの法律のいずれかの刑事罰、過料の対象となる必要がある。また、加藤さんのように、公益通報のために内部資料を持ち出した際にも保護されるかどうか条文上は不明確で、裁判所による法解釈次第となっている。
公益通報に詳しい上智大の奥山俊宏教授は「改正法の施行で、公益通報者への保護は拡充される」と評価。施行後3年の見直しが決まっていることを踏まえ「内部資料の持ち出しなど『公益通報に付随する行為』について、保護を認める裁判例が積み重なっており、法律にその保護や免責を明文化するのもいいのではないか」と指摘した。
習志野市でも、不正な違法行為(19回も虚偽公文書作成!)が「内部通報」で明らかになったのに、与党が多数を占める市議会で「百条委員会設置が否決」され、うやむやにされてしまった
コメントをお寄せください。(記事の下の中央「コメント」ボタンを押してください)





