特に行きたいところもなかったけれど
一緒にいたかったから、散歩することにした。
神社に行ったら、ちょうど
「夏越しの祓(なごしのはらえ)」の茅の輪があった。
ふたりでじーっと、立て看板に書かれている
「くぐり方の図」を読み込んだ。
なかなか難しい。
「よし」
はらぺこくんが、とうとう輪の前に立った。
「行こう!」
わたしも横に並んだ。
「え、いっしょにくぐるの?」
「そうだよ」
「この神社、昼間はこんな、なんだね」
境内の裏のほうへ行って眺めた。
ここは、5年前の夜、ふたりで来た。
ほろ酔いで散歩して、
この境内でマスク越しにキスをした。
コロナのさなかだったなあ。
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いっぱい歩いて散歩する。
あっちの道、こっちの建物。
ちい散歩ならぬ、はらぺこ散歩。
はらぺこくんは、街歩きが大好き。
それも、観光化されていない、ありふれた街。
「”スリバチ学会”っていうのがあって、
時々ネットで見るんだ」
東京の面白い地形を探索する会らしい。
はらぺこくんは、変なものを知ってるなぁ。
公園のベンチでひと休み。
すると、となりのベンチに
リュックを背負った小学4年生くらいの
少年グループがやってきた。
子どもって、つい見てしまう。
「10円、みつけたっ!」
とか、大きな声で騒ぐ。
そしたら
「俺ら、メチャクチャ見られてるぜ」
と、サッカー少年みたいな子が仲間に注意した。
はらぺこくんと、顔を見合わせて
こっそり苦笑。
「別に理由もなく、見てたんだけど。
今の子って、脚長いよなぁ。」
小声で言った。
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ちょっとお茶しよう、となって
おいしいスウィーツのお店に入った。
テラス席に向かい合って座る。
なかなか高級店だったのだけど
はらぺこくんは、気に入ったみたいだった。
わたしがトイレから帰ってきたら
スマホで地図を眺めていた。
「このへんは、いいなぁ」
「いいよねえ。
おしゃれだよね。」
「ウーバーもいい!」
ウーバーの注文具合をチェックしていたのだった!😀
彼がいつも走るエリアより、ずっと需要が多いって。
思わず、ずっこけて、笑ってしまった。
シリアスな話もいっぱいした。
でも、覚えているのは、自分で言ったこんな言葉。
「優しい笑顔を見ているの」
向かい合ってお茶しながら
ちょっと話題が途切れた瞬間
好きな人の顔をながめるのが、とても幸せ。
見るっていうのは、「好き」の始まりでもあり
最高到達点でもある気がする。
高級店なので、お茶でもお支払いは
なかなかだった。
いつものように、お会計のあと、
自分のぶんをはらぺこくんに渡す。
もう、テーブルの上で気にせず
ふたりでお財布だして、小銭をやりとりしたり😊
「あー もうこんなとこで」
と、おどけるはらぺこくん。
「あはは♪」
「すみませんねぇ。
はらぺこがお金持ちじゃないもんで」
もう、そういう「トホホ」を可愛く出すところ
反則だよーー(^▽^)
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残りの時間が少なくなると
いつも、何か大事なことを言わなくては
という気持ちになる。
駅に向かって歩きながら、話しかける。
「また、現状維持になっちゃう。」
「現状維持、いいじゃない。」
「よくなーいー!
でも、わたしの人生、ずうっと先が読めないから。
計画がぜんぜん立てられない。
だから、はらぺこと付き合い続けているのか。」
「ほんとにイヤになったら
終わりにする人でしょ。
ちがうと思ったら、スッパリ
次へ行く人だよね。」
「そうだけど。
どうせ、はらぺこくんは、
かっぱさんの好きにすればいい、って
思ってるだけなんでしょ。」
そんな冗談めかした痴話げんかも
お決まりになっているのだけど。
駅について、ぐるぐるとさまよって
やっと、座れる席を見つけた。
そばには、七夕飾りがあった。
風で短冊が揺れて、丸いガラスの風鈴が鳴る。
「いい音だね」
「うん。風鈴、いいよね。
実家に、鉄の風鈴があって
それもすごくいい音なんだよね」
チリン チリン
「あーあ
やっぱ、はらぺこくんといると
落ち着く~」
はらぺこくんは、無言の微笑みで返事をする。
「いつ行けるかわからないけど
旅行、行こうね!
秋かな。」
今度は、無言であいまいな笑み。
「なんかさぁ
5年もいると、もう夫婦みたい。
”どっか連れてってくださいよ、お父さん~”
”あー、うん、そのうちな”
みたいな。」
「”お父さん~”って(笑)」
それから、晩御飯のおかずの話や
酒とみりんの役割がちがう話とか
揺れる短冊を眺めながら、ずうっとおしゃべりした。
帰り際に
「べろが痛くなっちゃった。
ふだん、こんなに話さないから」
って、はらぺこくんが笑う。
治療中の歯があって、べろを動かすと
少し当たるんだって。
駅で、エレベーターを1つ見送る。
ふたりっきりになりたくて。
そしたら、次を待っている間に
ひとり、年配の女性がやってきてしまったので
顔を見合わせて苦笑した。
いつもどおり、わたしのホームまで来てくれて
見送ってくれるはらぺこくん。
見えなくなるまで、ずうっと。
そんなこんな
5年目の初夏、ある日の記録。
(おしまい)

