所さんと2度目に会った時は

特にお店も決めず、

地下鉄の階段を

あがったところで待ち合わせた。

 

今でもそうだけど、

すぐに見つけられる。

 

杖を片手に

独特なシルエットだから。

 

今は、待ち合わせで

そのシルエットを見つけると

いた~♪!

と嬉しくなって

駆け寄ってしまう。

 

その日は、2度目とはいえ、

まだ新鮮で、

慣れない感じと、

その慣れない戸惑いを

おもてに出さず、さりげなく・・・

と、隣を歩きながらも、心が忙しかった。

 

はじめての待ち合わせと違って、

所さんはにこやか。

彼も初顔合わせは緊張してたのね、

と今ならわかる。

 

ファッションも、2度目はカジュアルだ。

 

所さんは、オシャレ。

60歳だけど、ダメージジーンズとか

小花柄のシャツとか

自在に着こなす。

 

そして、面白いところは

それを、とっても明るく自慢するのだ。

「この服、いいでしょ?

 ここのボタンがシャレてるよね?」

とか、

まるで小さい子どもが、

「見て見て!」とアピールするみたいに

ものすごく無邪気。

 

さらに、この後わかるんだけど、

それらの服は

100%すべて、フリマでゲットしている。

 

アルマーニのジーンズも

ブルックスブラザーズのスーツも

鯖江のメガネフレームも

全部、フリマ!

 

フリマは

所さんの趣味と実益を兼ねた

お楽しみの1つなのだ。

 

でも、このことは、秘密なんだって。

彼はいつもシャレた上質な服を着ていて

周りの人によく感心されるらしいけど

「このことは

 かっぱちゃん以外に

 話したことねーなぁ。」と

ニヤリと笑ってた。

 

似合っているかと言うと、

これが不思議と似合ってる。

 

彼の片足が悪いことは

ズボンの上からも一目でわかるのだけど

なぜか、全身からは

おしゃれで粋な感じが立ちのぼってる。

 

別に彼は

ファッション誌とか見もしないし、

特に研究もしない。

 
自分の感性のままに、
おしゃれを楽しんで
あまりにも堂々としているからかな?
不思議な説得力がある。
 
1度目に感じたのと同じ、
「俺のあるがままですけど、何か?」
っていう、抜群のポジティブオーラ。
それは2回目も感じた。
 
「どこのお店にしようか?」」
二人でいくつか眺めて
イタリアンの看板に目が留まる。
 
行ってみると
そこは、急な階段を上がった2階だった。
 
「先にどうそ。
 時間かかるから。」
と、彼は言い、
私の後ろから上ってくる。
 
手すりをしっかりつかみ、
息をはずませて
一歩一歩、上がる。
 
階段は、彼には難所だ。
 
こんな時、どうすればいい?
 
あまりじっと見るのも気が引ける。
 
でも、思わず
「大丈夫ですか?」と言葉が出る。
 
「大丈夫、大丈夫。」
こういう時、
所さんお得意のギャグが出る。
 
「階段でも俺が怖いのは
 四谷怪談(かいだん)だけだから。」
 
のちに
これは、お店で店員さんに心配された時とかの
定番として、何度か聞くことになるのだけど
もれなく、周りの人は、どっと笑う。
 
何かタブーのような、場の緊張感が
一気にゆるんで、和む。
 
みんなが所さんに救われる。
 
その日も、何を話したのか
あまり記憶にないのだけれど、
所さんは、またおいしそうに白ワインを飲んで
前の奥さんとイタリア周遊旅行を
楽しんだ話をしてくれた。
 
「イタリアが好きだな~。
 あいつら、人生を楽しむ術を知ってるよね」
 
昼間からワインのボトルを抜いて、
おいしいものを食べながら
他愛もない会話を楽しむ・・・
 
所さんそのものが
イタリア人みたいだ。
 
店員さんに話しかけるのも上手で
どこへ行ってもすぐ友達になっちゃう。
 
その日も、私はとてもリラックスして
楽しかった。
 
で、帰りに
所さんが席を立って
杖をついて歩くと、
ふと、また目を離せなくなる。
 
バイバイしてから
地下鉄の入り口で
階段を1段1段降りていく姿も。
 
底抜けに明るい所さんだけど、
人ごみのなかでひとり、
ゆっくりゆっくり、階段を下りる後ろ姿を見ると
なぜか、胸がきゅっとなる。
 
そう。
所さんは、存在自体がドラマチックなのだ。
 
堂々とした自信にあふれてて
イタリア人みたいに明るくキュートで
江戸っ子みたいに粋で
みんなを惹き付ける人。
 
だけど、
杖をついて、体を大きく揺らして歩く姿、
階段を慎重に上り下りする姿は
思わず、心配になり目が離せなくなる。
 
彼の持つ、その大きな振れ幅。
 
一緒にいると
すごくポジティブで
リラックスした気分にさせてくれるのに
ふとした時に
「大丈夫かな?」とハラハラする気持ちになる。
 
おしゃべりしている時は
ウィットに富んでいて知的で
オープンマインド。
 
だけど、歩く姿を見ると、
私は、サバンナに1頭でたたずむ、
手負いの野生のシカのような
孤高と哀愁を感じる。
 
こんなことを言うと
彼の障がいをドラマチックと言っているみたいかな。
こんなこと、思っちゃいけない?
浅はかでセンチメンタルに酔ってるだけ?
 
でも、そんな自分への疑問も含めて
私の頭の中は所さんでいっぱいになってしまった。
 

とにかく目が離せないのだ。

これが「好き」なのかは、よくわからないけど。

 

そして、あまり時をおかずに

3度目、会うことになった。

今度は彼の最寄の駅で。

 

その日は、皆既日食並みにめずらしい日。

子どもたちが帰省していて

私がフリーになれる、

年に1,2回しかない日だった。

 

 

(つづく)