飲み会の居酒屋から抜け出し、
雑居ビルの非常階段で
クリニックに電話をした私。
トゥルルー トゥルルー
と、コール音が鳴る。
アルコールはけっこう回っていたけど
それでも、これからしようとしていることに
頭は冴え、心臓がドクドクしていた。
「はい、○○クリニックです」
受付の女性が出る。
ちなみに、クリニックに電話をかけるのは慣れていた。
リハビリのスケジュールの変更などは
電話して、直接先生と話すシステムだったから。
そこで、
この晩も、私が「○○先生、いらっしゃいますか?」
と言うと、
「はい、少々お待ちください」
と、ごく自然に取り次いでもらえた。
どうしよう・・・
言うセリフは、心の中で何度も復唱していた。
でも・・・先生、いないでくれたほうがいいな・・
そんな気持ちさえ、こみ上げてくる。
「はい、○○です~!」
い、いた~っ!!!
先生の、いつもの明るい元気な声。
「川野さん、(私のこと)
昼間、お電話くださったそうで」
このとき、
なんて言ったのか、
実は、ちゃんとした記憶がない。
それくらい、意識、ぶっ飛んでた。
「あ、お世話になっております。
今、お電話大丈夫ですか?」
このへんまでは、オートマチックで言える。
その後だ。
「あのーそのー
今日、ちょっと、
ほんとは言いたいなってことがあって・・・」
少しだけ無言の間が流れる。
緊張で息が浅い。
「先生、
今週とか、
お花見に行きませんか?」
言った・・・・!!!
さらなる沈黙。
先生からは「え!」とか「おおっ!」とか、
感情を表すひと声さえなく、
私の言葉がスマホに吸い込まれたみたいだった。
その間は、本当は、ほんの数秒だったのだろう。
次に聞こえてきたのは
ものすごく落ち着いた、先生の声だった。
「今週は、忙しいんですよねぇ。」
1ミリの動揺も感じさせない、
やわらかく、でも、確固たるものを感じさせる声。
「え、 忙しいの?
じゃあ、じゃあ、来週は?」
反射的に、言葉が出た私。
「来週も・・・忙しいんですよねぇ。」
なんて短い言葉。
それ以上、先生は何も言わず、
私の反応を待った。
「そっか。
そうなんだぁ。残念。」
心が骨折したみたいに
衝撃がじーーーーんと、胸に来てたけど、
理性でしゃべった。
「せっかくなのに、すみませんねぇ。」
と、先生。
どう、挨拶したのか覚えてないけれど
電話は終わった。
しばし、虚脱状態のわたし。
数分、そこに立ち尽くし、
今のやりとりを反芻する。
先生は、パーフェクトだった。
優しく温かい声だったけど、
私的な顔は一切見せず、
余計なことは、一言も言わず、
ごく短い言葉で、バッサリ切った。
そして、
その後のリハビリにも、
一切、影響がないよう、
患者と理学療法士という信頼関係に
亀裂を入れることもせず、
絶対に超えられない壁を示して見せた。
プロだ。
もしかして、
こういうの、対応マニュアルとかあるんだろうか?
リハビリの場で
いかにも起こりがちなケースだもの。
だけどさ
先生だって男だ。
本当に本当に気に入った相手だったら
違う対応をするだろう。
きちんとした療法士さんなら
リハビリ継続中に、患者と施術者の関係を
絶対に超えたりはしない。
それはわかる。
でも、ほんとに好きになったらさ
「もっと先になれば、時間ができますよ」とか
「治療が終えたらお祝いでもしますか」とか
いくらでも、言えるはず。
そういう
好意の切れっぱし
みたいなのも、ぜーんぜん、なかった!
これ、フラれたよね?わたし。
あたって見事に砕けた!!!
今思えば、
45歳でこれ、特攻隊かよ!と思う。
きな臭い例えを使ってしまったけど。
「先生を困らせたりしない」って
思ってたのに、
十分困らせてるし!
不器用すぎる、正面突破。
自分の痛手もマックス。
あああああ!
次のリハビリ、どんな顔していけばいいっ?!
フラれた衝撃を
ひとりで抱えきれなかった私は
友人に電話して、いっぱい聞いてもらった。
「あー それは フラれたね。
いいんじゃない?
無理しないで。
次回、恥ずかしそうな顔で行ってもさ。」
「まあ、ここはおばさん力を発揮してさ、
何かありましたっけ~?
みたいな、鈍感力で行っては?」
そんなアドバイスをくれる友人もいた。
パワーストーンの力で、
調子に乗りすぎちゃった?わたし。
ものすごーく無様、だよね?
ホワイトデーにお返しをもらえたのが嬉しくて
いい気になって、
こんな体当たりアタックして。
先生に気まずい思いもさせて・・・
何やってんの?
でも・・・でもさ。
自分のこと、そんなに責めたらかわいそうだ。
韓流ドラマで、以前見て、
気に入ってる言葉を、思い出していた。
「自分を責めなくていい。
ただ、痛みを味わえばいい。」
うん。
痛い。
痛いよ、これは。
だけど、自分を責めなくていいね。
痛いのは
自分が行動した証拠。
がんばったんだ。
「別にこれくらいどーってことない」
なんて、強がる必要もない。
私は、心のやわらかい部分を差し出して
拒絶されて、傷ついた。
痛くて当たり前。
これをたっぷり味わう時間が、必要なんだ。