新たな「パラダイムシフト」に向けて-5 | トリファラスキーのブログ

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学習塾を30年間経営。2009年5月にあろう事かパニック障害になり、うつ病も併発。日々肉体の衰えと戦いながら、アンチエイジング情報、健康情報等を勉強している。ブログを通じて、体験のまとめと、日々の思いやいろいろな情報発信、共有をして行けたらなーっと思っています。

▷   「ここまでわかった、慢性炎症」の5回目です。



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◆ 新たな「パラダイムシフト」に向けて


 「炎症」も、癌も、生命現象の根幹に関わる生体反応だと言え、

 ともに、病理学、細胞学、生化学、分子生物学を経て、

 最近では、ゲノミクス、システムバイオロジーなどを取り入れながら研究が発展してきた。


 ただし、両者の研究は平行した2本の線のようで、互いに交わることはなかった。

 それが、ここへ来て急接近し、両者の架け橋となる研究が、あちこちで展開され始めている。

 得られた成果は、治療や創薬への直接的な応用が期待でき、癌大国日本の国民への恩恵は計り知れない。


 このような融合領域研究を推進し、医療に応用できる成果を得るには、

 研究者集団による新たな「パラダイムシフト」の確立と、政府による予算分配の工夫などが急務だろう。

 昨年来の事業仕分けで、科学研究予算は縮小の一途をたどっているが、

 優れた「目利き」によって有望な研究の芽が生かされるよう、切に望む。


 慢性炎症と癌との関わり


 【「モダンメディア 51巻 4号 2005」より 】

 ※ 元国立がんセンター研究所 所長 髙山昭三  ※ 明治製菓株式会社 創薬研究部門 安福一惠



(1)はじめに


 1863年、ドイツの「ウイルヒョー」は、癌はある刺激により組織が損傷され、

 次いで起こる「炎症」の局所から発生する、という説を提唱した。

 組織細胞が損傷を受け、そのあと引き続いて起こった「炎症」から細胞増殖が誘起される、という考え


は、

 慢性の「炎症細胞」から「細胞増殖促進因子」が放出され増殖する、という現在の知識に一致するもので、

 「ウイルヒョー」が近代病理学の開祖と崇められるゆえんである。


 「ウイルヒョー」のもとで研究した「山極勝三郎」は、帰国後、ウサギの耳に「コールタール」を塗布し、

 1915年、世界で初めて「人工癌」に成功した。

 この業績は世界の医学界から称賛された偉業であるが、すでに1908年『胃癌発生論』という大著を刊行し、

 胃癌と『慢性胃炎』の相関について、極めて造詣の深い論文を発表した。


 以来、病理学者を中心に、個々に臓器癌の発生と『慢性炎症』について研究されてきたが、

 1つの学問的体系を確立するまでには至らなかった。




(2)癌の発生要因の中で感染症の占める割合


 イギリスは伝統的に社会医学に関心の強い国である。

 1775年、「ポット」が煙突掃除人の陰嚢皮膚癌を報告し、癌を職業病として取り扱った。

 以来、産業革命とともに、各種の職業の従事者、特に、化学工業で働いた人々に癌が発生した。

 この場合、問題になったのは「化学物質」であり、それらによる「炎症」であった。


 1981年、同じく、イギリスの「ドル」らは癌の発生原因の割合を推計し、

 食物が約35%、タバコが30%、感染症が10%、性生活によるものが7%、アルコール飲用によるものが3%、

 などと報告した( 参照記事「食生活とがん」)。

 感染症と癌の発生との関わりが10%という関連性は無視できない。


 その後、研究が進み、現在では、新しい「ウイルス感染」も加わって、寄与度は約15%と推定されている。

 今後、新しい感染症も増加することも予想されるが、感染阻止、治療法などの体制が充分でない現況からすれば、

 この推計値は、さらに増大するであろう。




(3)疫学研究で示されたもの


 1950年代、筆者(髙山)が病理解剖を始めた頃は、肺結核症と肺癌の発生には相関がほとんどみられず、

 肺結核に肺癌の発生はないだろう、と考えられていた。

 これは、若年死亡者が結核患者に多く、肺癌の発生まで生きられなかったことを物語っている。

 後年、肺結核患者に肺癌が見られるようになった理由の1つは、

 予防法、治療法が確立され直接死亡者が少なくなり、

 したがって、肺癌による死亡者が目立つようになったものと考えられる。


 さて、肺結核と肺癌の疫学調査研究も数多く報告されている。

 いずれも、対象群に比して、肺癌の発生は有意に高い。

 例えば「青木国雄」らは、愛知県の結核登録患者と、フィラデルフィアの結核登録患者を比較調査し、

 リスクの高い傾向は両地区とも同じであった、と報告した。




(4)発癌の「イニシエーション(起始)」と「プロモーション(促進)」


 「ラウス」は1941年、癌は「ウイルス」や「化学物質」が原因で体細胞に誘起された、

 「subthreshhold neoplastic states」から発生する、と報告した。

 このことは、今日では、いわゆる「イニシエーション(起始)」と呼ばれている概念に等しい。


 「イニシエーション(起始)」は、細胞核におこる不可逆的な変化であるが、それだけでは癌にならない。

 癌細胞が増殖して塊をつくるためには、細胞増殖を助ける「プロモーター(発癌促進物質)」の作用が必要である。


(癌の世界では「発癌させる要因」と「発癌を促進する要因」を分けて考えます。

 「発癌させる作用」を持つ 化学物質 を『発癌イニシエーター』と言います。

 「発癌を促進する作用」を持つ 化学物質 を『発癌プロモーター』と言います。

 発癌プロモーターは 単独では 発癌性 を示さず、発癌イニシエーターの作用を「促進させる働き」をします。

 発癌イニシエーター = 発癌性物質、 発癌プロモーター = 発癌促進物質、と考えれば良いです:ブログ管理人)


 事実、増殖しつつある細胞や、その周辺に集まってきた「炎症細胞」などから、

 直接、間接に「ホルボール・エステル」と同じような作用を持つ「プロモーター(発癌促進物質)」が出て、

 また「活性酸素」などの作用も加わって「DNA に障害を引き起こす」と考えられている。




(5)メンキンの「炎症性浸出液」の研究、発癌との関連性


 分子生物学の進展とともに、各種の「細胞増殖促進因子」が見出され、今日、この分野の研究は急速に進歩した。

 歴史的に見ると、アメリカでは、すでに1940年代から「炎症浸出液」を生化学的に研究し、

 「炎症」と癌の発生を追究した研究者がいた。それは、フィラデルフィアの「メンキン」であった。


 「メンキン」は「炎症浸出液」を透析し、


   ● leukotaxin(白血球の浸出を助ける)

   ● leukocytosis(白血球増多因子)

   ● necrosin(細胞障害因子)

   ● leukopenia

   ● exudin(血管透過因子)


 などをそれぞれ分離し、「炎症」の局所には単数または複数の因子が作用していることを報告した。

 〔Cancer Res, 1:548, 1941〕


 後年、「炎症浸出液」の「細胞増殖因子」は nucleopeptide で、

 これを非妊娠ウサギの乳嘴に注射し、乳腺の増殖が起こることを認めた。

 そして、浸出液中には「細胞増殖」─「修復作用」─「腫瘍性増殖」を起こす因子がある、と考えた。


 事実、「メンキン」は、上記の因子(群)をウサギ皮膚に注射し、そのあと、癌原性炭化水素を塗布し、

 対象に比して有意に皮膚腫瘍の発生を見た。

 そして「炎症性浸出液」には「発癌プロモーター作用(発癌促進物質の作用)」がある、と発表した。




(6)炎症、および、腫瘍組織の「サイトカイン」「ケモカイン」


 「炎症性浸出液」のみでなく、今日では、腫瘍細胞にも、

 白血球を引き寄せる「サイトカイン」や「ケモカイン」があることがわかってきた。

 癌組織には、好中球・マクロファージ・単球・樹状細胞などが存在し、

 これらの細胞から「活性酸素」「タンパク分解酵素」「細胞膜貫通因子」などの「サイトカイン」、

 TNF-a や IFNs などを放出している。


 研究が進むにつれて「炎症性細胞」から放出される各種の「サイトカイン」「ケモカイン」などが癌細胞にも存在し、

 細胞増殖をめぐり、複雑に絡み合ってきた。


 例えば、腫瘍に随伴した単球由来のマクロファージ(TAMs)は、腫瘍組織内の「炎症性浸出液」中にある主要な細胞で、

 「ケモカイン」の1つである MCP によりリクルートされる。

 このマクロファージ(TAMs)は、腫瘍組織内で2つの役割を果たしている。

 第1は IL-2・IL-12 などにより殺細胞性に作用する、その第2は 血管新生、

 リンパ管の新生増殖を起こす因子としての「サイトカイン」や「タンパク質分解酵素」などを産生し、

 血管新生を助けている。


 また、メラノーマの発育過程では、活性化マクロファージは TGF-b・TNF-a・IL-1a や「タンパク質分解酵素」を分泌し、

 メラノーマの浸潤・成長に必要な血管新生に密に関連している事実も報告されている。




(7)慢性炎症と癌


 『慢性炎症』と深い関わり合いのある癌としては、

 慢性潰瘍性大腸炎やクローン病と大腸癌、C型肝炎ウイルス感染で起こる慢性肝炎と肝細胞癌、

 住血吸虫の感染により起こる膀胱癌・大腸癌、ピロリ菌感染で発生する胃癌、などがある。


 表に『慢性炎症と関わりのある癌』『癌に関与する感染因子』などを一覧したので参考にされたい。


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 ピロリ菌は1983年、『慢性胃炎』の患者から分離された「グラム陰性らせん桿菌」で、

 1994年、WHO/IARC から「definite carcinogen」と決定された。

 「日本ヘリコバクター学会」のガイドラインによると、

 ピロリ菌感染により胃癌まで進展する例は、全感染者の 0.4% ぐらいと推定されている。


 癌になる原因は種々想定されているが、

 活性化マクロファージから「活性酸素」や「iNOS」が出て、直接、胃粘膜上皮に作用し細胞 DNA に変異を起こす、

 というものが有力視されている。



 「ウイルヒョー」の学説以来、「炎症」と癌はいろいろの角度から研究されてきた。

 従来、両者の関係は疫学調査研究・病理学的研究などが主であったが、

 1980年になり、前述のように分子生物学が導入されるに及び、急速に進歩した。

 その結果、癌と「炎症」はお互いに関わり合いの深いものであることが明らかになってきた。


 将来、「炎症」の治療法が確立されれば、人々は果たして、癌という疾病から解放されるであろうか。

 『慢性炎症』が元で発生する癌は 約15% くらいと推定されている現状からすれば、

 癌死は幾分減少するものの、人は癌から解放されないであろう。


 現在、年間 約30万人 以上の方々が癌で死亡している。

 この数は「亡くなる人の3人に1人が癌である」ことを意味している。


 『慢性炎症』と癌の発生はかけ離れたものではなく、両疾患には共通した機構のあることが明らかになった。

 『慢性炎症』に対する予防法・治療薬の創出は、癌死から人々を救うために極めて重要な課題と考えている。


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転載終わり