◆ リンパ腫とも関連
一方、「マイクロアレイ」を用いて、網羅的に「発癌に関わる SNPs(一塩基多型)」の解析を進める過程で、偶然にも『慢性炎症』に関与する遺伝子に行き当たった研究者もいる。
「東京大学医学部附属病院」キャンサーボードの「小川誠司」特任准教授である。
これまでの研究で、染色体の転座、遺伝子の欠損、遺伝子数のコピー異常などのゲノムの異常によって「癌化」が促進されることが知られてきたが、
小川准教授は「アフィメトリクス社」などが販売している「SNP アレイ」を用いて、
「癌細胞中の遺伝子コピー数の異常やアレル異常」を大規模かつ高精度に解析できるシステムを構築し、
多種多様な癌について 6000例 を超える試料の解析を行なってきた。
● その結果、マルト(MALT)リンパ腫という悪性リンパ腫において、
第6番染色体の端に位置する 143kb ほどが、2つのアレルで両方とも欠損する異常が極めて多いことがわかりました。
その欠損領域にある重要な遺伝子を探索したところ、「炎症」の制御に関与するとされる「A20遺伝子」に行き当たったのです。
と、小川特任准教授。
マルト(MALT)リンパ腫は、消化管粘膜や腺組織に分布するリンパ組織中の「B細胞」が「癌化」するもので、ピロリ菌感染や、橋本病などの「自己免疫疾患」に伴う『慢性炎症』に合併して発症する、という特徴を持つ。
つまり『慢性炎症』を基盤に発症する癌だと言え、ピロリ菌の除菌などによって『慢性炎症』をコントロールすることで、リンパ腫が自然に消滅することも多いと言う。
「A20遺伝子」については「TNF- α が NF- κ B を活性化するためのシグナル伝達」を強力に遮断することで、
「炎症シグナル」を抑制する機能を持つことがわかっている。
● 直感的に、以下のようなストーリーが考えられます。
『慢性炎症』は「炎症」のもとになる刺激があり、それを免疫応答で解除できない状態です。
病変組織では、TNF- α などの「炎症性サイトカイン」が出されています。「A20タンパク質」は、このような「炎症部位」において TNF- α の刺激によってつくられ、 TNF- α による「炎症性シグナル」を強力に遮断する酵素として働きます。
しかし「A20」を欠損した細胞では、このような作用が機能せず、「炎症」は治まりません。
さらに「炎症性シグナル」の下流で活性化される増殖因子によって細胞分裂が促進されることにより、 その中で、さらに遺伝子に変異を起こすものが現われ、それが癌細胞へと姿を変えて腫瘍へと成長していくことになるわけです。
と、小川特任准教授。
▶︎ 現在、小川特任准教授は、広島大学の「本田浩章」教授と共同で、
「A20遺伝子」を成体マウスの様々な臓器で特異的に失わせることのできる、「コンディショナル・ノックアウトマウス」の作製に成功しており、
● このようなマウスに人工的な「炎症刺激」を与えることによって、マルト(MALT)リンパ腫をはじめとするヒトのリンパ腫モデルを誘導することができるかどうか検討し、リンパ腫の発症と『慢性炎症』の因果関係を明らかにしたい。
と語る。
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