山のふもとにはバッファローの群れがいくつかあって、どの群れも今年生まれた仔バッファローを守りながら日向ぼっこをしていた。ここはバッファローやターキー、恐らくは鹿もいる。小さな湖があって、ここのところの大雨で増水し、小川ができている。松やジュニパーといった木々に囲まれ、めったに人が出入りしないために動植物にとって過ごしやすい場所だろう。
エキナセアやセージをはじめとする薬草がそこら中に生えていて、よく見渡すと医長の薬になるクレオソートや以前ホワイトサンダーが『歯痛に効く』と言っていた小さく黄色い花(たぶん菊の一種)やマグワート(日本でいうところのヨモギ)などもある。
ここが聖地だとされるのは、こういった人々が生きていくのに必要なものがそろう場所だからだったのだろう。アリゾナはセドナ近郊にあるモンテズマウェル(古代プエブロインディアンが住んでいた遺跡がある)も「何かあったらここにくれば生きていくのに最低限必要なものがある」と言われているが、ここもそれに近い感じがする。
ここにいるバッファローはどこからか連れてこられたのではない。ずっとここら辺を縄張りとして生きてきた野生だ。
かつてバッファローが食料源となっていたラコタを始めとする狩猟インディアンにとってここはまさに聖地と呼ぶにふさわしいところなのかもしれない。
バッファローは彼等にとって「豊穣」のメディスンアニマル。四足歩行の動物の中では最も神聖な動物だ。
彼等は動物を『翼を持つ動物』『2足動物』『4足動物』『水の中の動物』などに分けた場合、下記のような動物が神聖視されている。
翼を持つ動物:イーグル、2本足:熊、4本足:バッファロー、水の中の動物:カメ
これらは部族によっても少々異なるかもしれないが、その下にはホークやフクロウ、ヘラジカ(エルク)やオオカミ、クモ、トカゲといった感じに続く。(クモは一応4本足のグループに分類されている。その理由は次回の項目で書きたいと思う)
18世紀~19世紀、毛皮貿易のために乱獲されて絶滅の危機に瀕したバッファロー。現代では野生であっても個体数と生態系の維持のため耳にタグが付いている。とはいえ野生は野生。見知らぬ自動車という物体がやってきたために、もの凄い形相で一斉に睨んできたのは言うまでもなく。まして仔バッファローがうろちょろしている状態だ。ちょっとでも気に障ることがあれば一目散にアタックされる可能性がある。
居留区では毎年数件、バッファローや鹿にアタックされて車を大なしにされるばかりか死亡事故も起きる。居留区の交通量はたかが知れているので、ネブラスカ州境で酒に溺れた人が飲酒運転で事故を起こす以外はさほど人身事故は無い。飲酒運転の次に多いのが動物による衝突事故らしい。ワゴン車など軽く転がしてしまうほどの勢いだそうだ。
車の中から見ていた時は「タタンカ!!(ラコタ語でバッファローの意味)」と狂喜乱舞していた。私が「タタンカ オタ!(文法上合っているのか分からないが、「バッファローがいっぱい」という意味)」と言えば、ホワイトサンダーが「シチューにするぞ!」と返す。
タタンカ・シチューは以前ホワイトサンダーの自宅にお邪魔した時に作ってくれたのだが、けっこうおいしかった。おそらく作る人によって違うのだろうが、彼が作ってくれたのは自家製バッファローのひき肉と野菜をトロトロに煮込んで、米を加えたリゾット風だった。見た目は微妙だったが味はなかなかである。
私たちは一応車を楯にするため群れとは逆の方向から降りて遠くからバッファローを見ていた。その距離は約10m。騒がなければ大丈夫だと言うホワイトサンダーの言葉を信じて車から離れ、写真撮影をしていた。
彼は冗談好きで、時折こちらからすればシャレにならない事を平気でする野生な人なため、いつ彼が大声を出してバッファローを驚かせるんじゃないかとヒヤヒヤした。
ところがそんなジョークなど一切しないところを見ると、本当にバッファローを威嚇するのがシャレにならないほど恐ろしい事のだと分かる。彼は年に数回は自宅で飼っているバッファローを食用にするために格闘するのだから、その恐ろしさは身にしみて分かっているのだ。まして彼にすれば神聖な動物でもある。
ホワイトバッファロー・カーフ・ウーマンにあるように、バッファローは偉大なる天の使い。日本でいえば天狐みたいなものだろうか?*狐さんは元々豊穣のシンボルで神(仏)の使いなので。
いずれも怒らせると恐い存在ではある。
ところでバッファローとはアメリカ・バイソンの事である。よく目にする肉牛や乳牛と同じ牛科だが、見た目がずいぶん違う。仔バッファローは狐色の毛でとてもかわいい。どんな動物も子供の頃はかわいい。それがどうしてこんなに恐ろしい形相になってしまうのだろう。まぁそれは人間にも言えることだが・・・。
バッファローを見てまず思うのが、その頭の大きさだ。普通の牛と違って鬣のような毛に覆われているせいもあるのだろうが、とにかく大きい。そして角。
ここのバッファロー達はけっこう角が痛んでいる。中には片方折れているのも見かける。
繁殖期ともなれば力比べが展開されるのだろう。バイソンの頭突きの衝撃は、相撲の力士の立ち会いでの衝突を遥かに上回るらしいが、よく目眩を起こさないものだと感心してしまう。
この山の麓では木が倒れていたり傷付いているのをいくつか見かけたが、それはバッファローが頭突きでの力比べに備えて訓練した結果と推測される。いやはや凄まじいものである。
そんな恐いバッファローだが、聞こえてきた鳴き声は普通の牛の低い「ンモォォォ~~」より少しトーンが高い。
「モォォ~」とは鳴くが、強面の割にトーンが少々高いのが笑えた。
*ドリームキャッチャー~いや、私はスパイダーウーマンじゃありません~につづく
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