ボクはあまり腹を立てない人間なので、「仏」の showhanng と言われているのだけど、昨日は実に腹が立ったので、つい声を荒げて「放っとけ~」と怒りを爆発させてしまった。
今日になっても怒りが気分の中に錨を下ろして、新しい記事を書く気になれない。
古い記事の採録でご勘弁願おう。
2017年1月9日の記事。

「ボルヘス絶賛」のキャッチコピーに惹かれて読んだが、実を言うとこの作品よりも、今読んでいる作品のほうが面白い。
2,3日中に取り上げる予定だが、そうなると、この本も取り上げざるを得なくなるし、頭の中でざっと図面を引いたら、2作だと長い文章になりそうだ。
ネットで長い文章を読むのは辛い。
なので、いったん、この本を紹介しよう。
まず、歴史の勉強からだ。
知らなくとも読解には困らないが、知っておいた方が理解しやすい。
ナポレオンの登場で、神聖ローマ帝国は消滅し、ドイツの小さな国々(当時のドイツは日本の封建時代と同じ。数多くの領主国家の集合体だった)は「ライン同盟」を結成してナポレオンを盟主と仰いだそうだ。
ナポレオンはスペインにも圧力を加え、彼の兄をスペイン国王として送り込む。
これに反対するスペイン人が現れてゲリラ戦を展開したので、ナポレオンはライン同盟のドイツ軍をスペインに投入する。
1812年、ここに送られたドイツ人部隊が全滅する物語だ。
実際には全滅などせず、無事帰還したそうなので「幻想歴史小説」と銘打ってるのかな?
ボリバル侯爵という不思議なスペイン人貴族がいて(ある種の魔法使いだと思えばいい)、彼が送る3つの合図で総攻撃すれば、ドイツ軍は壊滅するとゲリラ部隊に作戦を与える。
その3つの合図はドイツ軍の知るところとなり、ゲリラが殲滅されるはずだった。
しかし、ボリバル侯爵は小説冒頭で殺され、合図は3回ともドイツ軍自身が与えて全滅する。
どうして、そんな奇妙なことが起きたのか。
簡単に言えば、将校たちが酔っ払い、嫉妬に狂った結果だ。
そのために巧みな伏線がある(訳者の解説によれば、第1級の推理小説手法)。
第一の伏線は、部隊を率いている大佐(当時の将校だから貴族)が夫人を同行しているが、この夫人が5人の将校(彼らも貴族)の愛人で、5人は互いにそのことを知っているが大佐は知らない、という設定。
その夫人が亡くなり、大佐は夫人に似たスペイン人娘を愛人にする。
夫人に恋慕していた5人は、この娘も夫人同様に自分たちを愛人にしてくれることを願い、大佐に激しく嫉妬する。
嫉妬の最中に大酒を飲んで酔っ払うので、後先考えずにやったことがボリバル侯爵の3つの合図になってしまう。
もちろん、張り巡らされた伏線のせいで、読者には彼らの行為が納得できるのだ。
解説によれば、この本の改訂版がドイツで刊行されたとき、舞台となった街(当時は国)の公文書が、自分たちドイツ人はこんな酔っ払い集団ではない、と抗議の意思表明をしたと紹介してあって、腹を抱えて笑った。
ケルト人のドルイド教では、ヤドリギは神聖なものとされていた。
キリスト教となった英国でも、その思想は受け継がれたらしく、クリスマスには、ヤドリギの下で好きな娘にキスをしても良いのだという。
Jaymes Fenda and The Vulcans の Mistletoe Love はそんな歌。
クリスマスに紹介すればよかったのだけど、この曲が収められている Reday, Steady-Win! の See For Miles アルバム(87年リリース)を何十年も聴いてなく、今日たまたま聴いていて思い出したのだ。
最高に素晴らしい~!
B面も素晴らしいのだ。
ググったら、この盤以外には1枚のコンピにしか収録されていないようなので、バンドの紹介を少ししよう。
ロンドンのバンドで、上記番組のコンテストで入賞し、ミッキー・モストのプロデュースで64年に Parlophone からシングル発売された。
クリスマスの直前、あわただしい時期だったので会社の宣伝も行き届かずセールスは失敗。
バンドも1枚で解散。
このバンドでギターを弾いていた John Ford はこのあとも音楽界で活躍し、ドラマーの Richard Hudson と組んで共作を続けている。
2人の関わった(参加した)バンド名を少し挙げておくと、Velvet Opera(Elmer Gantry’s Velvet Opera)サイケファンにはそれなりに知られているかな?
次が Strawbs(フォークロックの世界では日本でも有名のはず)。
2人のユニット Hudson-Ford(こちらは聴いたことがない)。
70年代末には Monks を名乗って、パンクスタイルのアルバムを残しているそうだ。
カナダで売れたらしい(まだ聴いてない)。
モンクスといえば、60年代のモンクス(頭のてっぺんをそり上げた僧侶のギミックが有名な在西独駐留の米軍子弟)を思い浮かべる音楽ファンが多いと思うけど、別。
後は省略。




17年1月12日の記事。

前回「ボリバル侯爵」を紹介したが、この作品のほうが断然面白い。
こんなに面白い小説が、2012年、国書刊行会から翻訳出版されるまで、未訳だったとは驚きだ。
作者ペルッツはプラハ生まれのユダヤ系作家で、18歳でウィーンに移住。19世紀後半に生まれ、20世紀半ば過ぎに亡くなっている。
ナチの時代はパレスティナに亡命して、しぶとく生き延びた。
原書はドイツ語で書かれ、フランクフルトの小出版社から53年に刊行されている。
物語は、16世紀末から17世紀初めのプラハの街を舞台にした15の断章からなっていて、それぞれに独立した掌編としても読める。
だからと言って、連作小説と勘違いされては困る。
ばらばらに配置された物語が、読み終えると同時に緊密に結びつき、新たな世界像を結ぶのだ。
神聖ローマ帝国の首都でもあったこの街は、中欧最大のユダヤ人街があったそうで、物語はユダヤ人と、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世を中心に展開する。
歴史的事実、歴史的人物が多数配置されて動き回るが、巧妙に改変されて現れてくる。
小説冒頭の断章は、ユダヤ教の高名なラビ、レーヴが登場する。
ユダヤ教の秘儀「カバラ」に通じた人物で、グスタフ・マインリクのゴシック小説「ゴーレム」にも登場する。
カバラの秘儀を実践して、死者の言葉を聴くのが発端だ。
少し横道にそれる。
カバラは、秘教哲学としてながく一部のラビにのみ受け継がれていた。
キリスト教世界のオカルティズムが、カバラの思想に決定的な影響を受けるようになるのは16世紀になってからだ、とボクの持っている本には書いている。
広くオカルト世界に属する錬金術では、図像が重要な意味を持つが、カバラの書(ヘブライ語で書かれていた)で図像が使われるのはとても稀だというので、写真を載せる。

発端の断章からしてお分かりのように、魔術的な世界が連なっていくのだ。
小説の重要人物であるルドルフ2世その人が、バイエルン王のルートヴィヒ2世と並んで、美に耽溺して破滅的な人生を送った「狂王」として有名な人物だ。
余りの浪費で国家財政が傾き、錬金術師を登用して金を生み出そうとして失敗している。
こんな逸話も断章の中に紛れ込んでいる。
アルチンボルドが描いた有名な肖像。
果物で描いただまし絵だ。

この絵を見るとボクは歌川國芳のだまし絵を思い浮かべてしまう。

時代が下るので、国芳がアルチンボルドの影響を受けたのだ、という馬鹿なことを言いだす輩がいるかもしれないが、阿保。
人種や文明に関係なく、人間である以上、同じ発想が登場してくるのは自明の理(ことわり)だ。
タイトルにもなった「石の橋」は実在の橋で、プラハの街の中心部にあり、この時代にはそう呼ばれていたらしい。
現在は「カレル橋」と名付けられているそうだ。
新たな世界像を結ぶ、と最初に書いた。
ボクの感想を言うと、こういうことだ。
冒頭、ユダヤ人街で疫病が流行り、ラビ・レーヴは姦通の罪を犯した者がいるせいで神がお怒りになっているのだと死者の口から知る。
カバラの秘術を用いても名乗り出る者がない。
ラビははたと気づいて、石の橋の下で咲いている赤い薔薇にしっかり絡みついているローズマリーの白い花を引っこ抜く。
夢の中で、皇帝ルドルフ2世と実在した大富豪のユダヤ人の人妻が毎夜愛し合う魔術でもあったわけだ。
赤い薔薇と白いローズマリーは抱き合っている2人を表している。
14章で、天使アサエルがラビの元に現れることで、この小説は、いったんは人はなぜ罪を犯してまでも人を愛せずにはいられないのか、というテーマが現れてくるように思われる。
天使アサエルは、旧約偽典「エノク書」に現れる天使で、美しい人間の娘に恋焦がれたことで知られている。
ところがだ、最後の15章はいきなり時代が飛んで19世紀末、この物語を語って聞かせる大富豪の末裔と、それを聞く「わたし」、作者の話になり、流れゆく「時」の変化が前面に出てくるように思われるのだ。
まるで別の高い次元から、時の中で生き死にする人間たちの物語を眺める目、歴史の目とも言ってもいいし、天使の目と言ってもいい、を感じるのだ。
ロスのバンドで Other Half。
Mr. Pharmacist が有名だが3枚目の I Need You(67年)も捨てがたい。