入院生活後半、

私はある看護師さんが

某大学の名前の入った

看護服を着ていることに

気が付きました。

 

お昼の検温の時に

そのことを訊ねると

彼女はその大学の看護科から

実習派遣されている

学生さんだそうで

「年末からこの病院で

働いているんですよ」

 

「そうなんですか・・・あれ、

ちょっと待ってください、

年末ってことはもしかして

病院に来た頃はまだ

ワクチン接種とか

不可能だったわけですよね?

ノーワクチンで病院実習ですか!」

 

「フフフ、当時は大変でしたよ!」

 

「いや・・・あれですよね、

その頃は英国の患者数も

ピークのピーク・・・この病院って

コロナ患者の受け入れは

していたんですか?」

 

「していましたしていました、

病院にいる患者さんの

ほぼ全員

コロナ患者さんでしたよー!」

 

「それをノーワクチンで・・・

しかも病院に来るような人は

皆さん重症患者なわけだから・・・

大変でしたね!それは本当に!」

 

「まあそれは・・・当時は色々

悩みましたけど・・・でも看護師として

得難い経験を積めたと思います!」

 

そう微笑んだ時の彼女は

若くしてすでに

プロフェッショナルの誇りを

輝かせていて、うむ、

英国医療の未来は明るい!と

こちらの心が温かくなるような・・・

 

 

しかしそんな彼女にも悩みはあって、

普通だったら看護実習生というのは

今週は内科、来週は外来、

みたいに病院の様々な部署で

色々な勉強をさせてもらうはずが

「場合が場合だったので私は

『コロナ重症化患者』の看護に

特化してしまったというか・・・

こんな言い方は不謹慎かも

しれませんが、私は今

目の前にコロナにかかって

重症化している人がいたら

自分が何をすればいいか

完璧に理解しているんです。

自信を持って看護できます。

でもその代わりに、コロナ前の

『一般的な』実習経験を積んだ

看護生に比べたら、だいぶ

実地経験に『抜け』が

ある気がするんですよね・・・

実習が終わるまでになんとか

その穴を埋めたいとは

思うんですけど・・・」

 

私の英語力と理解力が

間違っていなければ、

彼女が勉強しているのは

大学の『院生コース』らしく、

「座学が去年の9月からで」

 

「え、待って待って、9月って

あれですよね、大学および

大学院の講義はすべて

『基本的にオンライン』って

通達が出ていましたよね。

全部オンライン授業でしたか」

 

「ほぼすべてそうでした。

どうしても実習が必要な時は

対面講義があったんですけど・・・」

 

「そうなるとあれですよね、

ほぼオンライン授業とはいえ、

時々の対面講義のために

住まいは大学のそばじゃないと

色々不都合が出るわけですよね」

 

「そうです、だから親元を離れて

大学のそばに引っ越して・・・

でも・・・私、友達とかほとんど

出来なくて・・・だって同級生の

顔も知らないんですよ・・・」

 

「ああ・・・オンラインだから・・・」

 

「私、新しい人たちと出会うことを

すごく楽しみにしていたんです。

でも結局仲間と一緒にパブに

行ったこともなく・・・」

 

ほら、あの頃は飲食店が

全部閉店中だったので・・・!

 

彼女の家族というか一族は

割と『医療系』で、いとこの多くが

医療・看護の道に

進んでいるらしいんですが、

「年の近い従姉がよく

『看護学科時代に

出来た友達は特別』って

言っていたんです。

勉強は大変だし

試験は超難しいし、でも

それを一緒に乗り越えて

時には共に羽目を外した

仲間たちは最高だって・・・

私には残念ながらそういう

友人はできませんでしたね・・・」

 

「そ、それは・・・でも私が

言うのもなんですが、あなた、

本当に頑張りましたね!

将来的に絶対それは

看護師としてのあなたの

強さを生み出すと思いますよ!」

 

「それは本当にそう思います。

実習中にもよく言われたんです、

私たちは非常事態下で

実習を経験しているって。

古参の看護師さんが

言っていたんですが、

『私も長いこと看護師を

やっているけど、ここまでの

ストレスを連日連夜ぶっ続けで

経験したのは初めて。

引退前にすごい仕事を

してしまったものだと思ってる。

あなたたちはこれを最初に

経験しちゃったわね』って」

 

実習生とはいえプロなので

彼女は詳しくは

語らなかったのですが

(話がそういう方向に進むと

すっと自然に話題を変えてきた、

そこらへんの手際も見事の一言)、

しかし私は知っている、

英国の当時のコロナ感染

死亡者数の恐るべき数値を・・・

 

つまりコロナ患者を

受け入れていたこの病院の

年末年始の患者死亡者数は

例年のそれとはけた違いで、

そして彼女はまだ

学生の身でありながらその時

最前線で戦ってくれていた・・・!

 

弱音も吐かず、涙も見せず!

 

しかしそんな彼女が

話をしていて悲しみに声を

詰まらせた一瞬があり、それは

「うちのおばあちゃんは、

孫の卒業写真を全部

暖炉の上に飾っているんです。

わかります?あのガウンを着て

卒業証書を持って記念撮影する・・・」

 

 

 

 

「ああ、わかりますわかります!

それはいいおばあちゃんですね!」

 

「・・・でも私の写真はそこに

混ぜてもらえないかも

しれないんです・・・!」

 

「えっ!それはまた何故!」

 

「大学が・・・卒業式を

中止するかもしれないから・・・!」

 

「・・・で、でも証書は貰えますよね?

それを持って看護服を着て・・・!」

 

「そんな写真じゃ嫌なんです!

あの暖炉はうちの家族の

誇りの記録なんです!

私はずっと自分の写真を

あそこに飾ってもらうことを

夢見てきたんです!

いとこが皆ガウンを着ている中で

看護服ってアナタこれ

私からしたら仕事着ですよっ?」

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「・・・いいんです。それもこれも

全部コロナのせいですから・・・」

 

私は英国の看護系

教育機関の偉い人に

一言申し上げたいことがある!

 

このコロナ禍で卒業式を

挙行するのは

確かに難しいかもしれない!

 

医療関係者の育成を

目指す機関であるからこそ

他の教育機関よりも

このご時世に厳しい姿勢を

見せたい気持ちはよくわかる!

 

じゃあせめて卒業式は

『中止』じゃなく

『延期』にしてあげて!

 

少なくともガウンの

貸し出しはしてあげて!

 

この1年、この大変な1年を

その大変さを凝縮したような環境で

それでも頑張りぬいた学生さんに

社会は報いるべきだと思うの!

 

彼女の通う大学が

卒業式中止を中止することを

心から願う私です。

 

 

五輪が開催できるんです、

記念撮影くらい罪はない!

・・・というのは問題発言でしょうか

 

でも彼女と似た経験をした

医療系学生さんは英国だけでなく

日本に・世界に数多く

存在するのだと思います

 

そういう人たちのことを思ったら

私は自分自身がもう少し

外出を控えることに異存なしです

 

(まあ私は元来

引きこもり気質なんですが)

 

何て言うのかしら・・・

 

私の『外出権』みたいなものを

彼女とその同窓生に

来月一杯お譲りしたい、みたいな・・・

 

医療の世界で働く皆さん、

いつも本当にありがとう!

の1クリックを


ヨーロッパランキング