優雅なる英国運河の片隅で

劇的なる衝突事故を起こした

我らの素敵なナローボート。

 

ところで私はここで一つ

告白をせねばなりません・・・

 

ここ数日間、私は何かというと

「(事故)現場には何隻もの

ナローボートが違法に

係留されていて」って

書いておりましたでしょ?

 

わが夫(英国人)が

今日になっていわく

「あそこは別に係留禁止

区域じゃなかったですよ。

君は他の場所と記憶を

ごっちゃにしてしているんです。

あの場において問題行動に

手を染めていたのはひたすら

僕たち、周囲にいた船に

責任は全くありません」

 

つまり私は無実の人々に

冤罪を着せていた・・・!

 

 

記憶の改ざんというか

思い込みって怖いですね、

私は長い間ずっと

あれは違法係留であったものと・・・

 

そんなわけで心の中で

多方面にお詫びを申し上げつつ

さて衝突事故のその後。

 

犯人は現場に戻ると言いますが

それにはまず

一度は逃げねばなりません。

 

もうね、何て言うんですか?

 

尻に帆をかけて?

 

わき目もふらず?

 

とにかく10分、いえ、

20分ばかり船を進めて

人気のない水路を見つけ。

 

無言のうちに船をもやい、

操舵席から船内に戻ってきた

わが義父(青白シュレック)に

我々はそっとウイスキーの

グラスを差し出したのでした・・・

 

 

で、わが父(イメージ武将:

石田三成)がそのご相伴に

預かっている間に・・・

といっても二人とも口をきかず、

ただお互いのグラスにお酒を

注ぎ続けるだけだったのですが・・・

我々は夕食、カレーライスと

サラダを準備(台所に

飛び散ったガラスの破片は

その時点までに清掃済み)。

 

 

食事の席でも我々は皆

示し合わせたかのように

言葉少なく、この日の

調理責任者であったわが母

(イメージ武将・豊臣秀吉)は

「ねえ、おかーさん、もう少し

いい反応をカレーに貰えると

思ったんだけど、何かしら、

アダムス家の人は

カレーが得意じゃないの?」

 

美味しいです、とか、

ご馳走様です、とかいう

言葉は勿論あったのですが

全員ちょっと

棒読み気味というか・・・

 

「いや・・・今日はもう

あちらにも

余力がないんですよ・・・」

 

「確かにそれはそうよね、

あれって一歩間違えたら

大事故だったわけでしょう?」

 

「いや、もうすでにかなり

大事故なんじゃないですかね?」

 

さてそんな感じに乗船者は

お腹は膨れたものの

ちょっと呆然というか

血が頭から腹部に回った分

脳貧血気味になっていたというか

とにかく事故の精神的衝撃を

各々どう消化するか、みたいに

皆が皆焦点の怪しい目つきをして

ぐったりと食卓に

座り込んでいたところに

・・・義父の携帯が鳴りました。

 

義父は無表情・機械的に

携帯を手に取り画面を開いて

「・・・息子その4(つまり

わが義弟その3)(ポアロの

ヘイスティングス君のような

立ち位置を得意とする好男子)

(いや本当に好男子なんですよ)

(ただちょっと間が悪いというか、

気は利くのに)からだ」

 

 

 

 

それを聞いて

わが義母(永遠の文学少女)が

「留守宅に何かあったかしら」

 

義父は携帯を操作して

音声を『スピーカーフォン』にし

「もしもし、私だ」

 

すると携帯からわが義弟その3の

いつも通りの間延びした呑気な声

「もしもし~?どうなの、

そっちは~?何もない~

(Nothing happened)?」

 

何もない・・・という状態から

我々はちょっと程遠いというか・・・

 

しかし何だろう、挨拶言葉として

通常ならば何のおかしさも感じない

ありきたりな一言をまさかの

このタイミングで繰り出せる

ヘイスティングス君のこの能力・・・!

 

食卓の周りにいた全員が

思わず吹き出し、それは勿論

わが義父も例外ではなく、

それでも義父は声だけは真面目に

「うむ、何もない!

何も起きていないぞ!」

 

その答えに我々がぐふぐふと

各自笑いを噛み殺していることも

知らずヘイスティングスは続けて

「もうそろそろさあ、皆

運河旅行に飽きたんじゃない?

ナローボート旅行は

優雅だっていうけどさあ、

あれでしょ、結局毎日毎日

刺激もない日々が続くんでしょ?」

 

思わず顔を手で覆うわが義母の隣で

義父は声の平静さを保ったまま

「・・・うむ!そうだな!

刺激というのはなかなか

得られないものだろうな!

普通に旅をしているぶんにはな!」

 

ここでわが夫は笑いを

こらえるあまり真っ赤になり、

しかしヘイスティングスは

「ああ、そうだと思った!

じゃあ皆退屈しているんだね!」

 

「退屈!確かにそうだ!

もうここ数日間、我々は

ハラハラドキドキとは縁遠い

時間を送っている、これは

逆に体に悪いかもしれん!」

 

「・・・父さん、僕は別に

飲酒を勧めるわけじゃないけど、

今夜あたりパブにでも行ったら?

あんまり何もないとNorizoの

ご両親にも悪いでしょう?

あのお二人は飛行機で遠くから

来てくださっているんだから」

 

これを聞いてとうとう

わが夫が笑い出し、

そして義父はヘイスティングスに

ほんの1時間前の我々に

何が起きたかを説明したのでした。

 

電話を終えた後、

義父の顔色は明らかに

正しい血色を取り戻していて

「息子はいつも通りに

トンチンカンではありましたが

正しいことも言っておりました。

今日はこれからパブに行き

1杯飲んでゲンを直しましょう」

 

 

そして我々はパブに行き

1杯飲んで船に戻り

明日の旅に備えて布団に入り

・・・そして深夜、

わが義母は悪夢にうなされ

暗闇の中に悲鳴を上げたのでした。

 

ナローボートの旅はまだ続く。

 

 

わが夫にとっても

この激突の記憶は

今なお悪夢の源泉で

あるらしいのですが

・・・私はこの衝突事故の

翌日の経験のほうが

思い出したくない

記憶になっていて・・・

 

・・・これ以上の何が?

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