指に穴を開けた夫(英国人)のために
臨時三助として活躍中の私です。
とはいえ夫は器用な性質なので
片手でもそれなりに体を洗うことは
自分一人で出来ているのですが
「怪我をした手の反対側の腕の
腋の下だけは
自分で磨けないのでお願いします」
・・・きれい好きなのはいいことです。
しかし私は今回このように
怪我の手当てを済ませた後の
夫の生活の補助などは
問題なくできているのですが
「君が怪我をした直後の自分の動転ぶりには
我ながらいまだに衝撃を受けているんだよな。
私はああいう場面に『強い』ほうだと
ずっと自負してきたんだけれどな」
東京で会社員生活をしていた頃
私は通勤中に何度か事故だの何だのに
巻き込まれかけたことがあるのですが、
記憶している限りの私は常に
速やかに警察もしくは救急に連絡、
あるいは周囲の助けを求めて揺らぐことなく
市民の義務を果たしてきたというか、
とにかく他人の怪我や出血を見て
ふらっとくることのない
体質の持ち主であったんですよ。
それが今回一瞬ではあるものの
膝が笑ってしまったのは
不覚というか何というか。
お風呂上りの夫に
そんな愚痴を述べたところ
「・・・それはね、問題は愛ですね」
「そういう陳腐な総括は
避けていただきたいのだが」
「いえ、これはこの冬の東京でも
僕は同じこと思ったんですよ。
ほら、年末に君のお母様
(イメージ武将:豊臣秀吉)が
庭で転んで怪我をなさった時」
そう、それはこの冬、私が夫を連れて
日本に帰省していた時のことでした。
ある日の午前中、2階の寝室で
荷物の整頓などしているところに
1階から妙に切羽詰まった父
(イメージ武将:石田三成)の
声が聞こえてきてですね。
何事かと階段を下りたら
台所わきの勝手口の向こう側、
庭の縁側のところに
わが母が崩れ落ちている姿が見え、
父はそんな母を後ろから支えていて
「おかーさんが転んじゃったんだ!
立たせようとしたら痛いって言うから
俺一人じゃ立たせられないんだ!
お前、そっちで手を持ってあげて!」
言われたとおりに正面から母を支えると
口から血は出でいるわ歯も折れているわで
それでもなんとか室内に導き入れて
椅子に座らせると、ああ、なんということでしょう、
膝と、そして耳からも出血が
見られるではありませんか!
「・・・お母さん、安心して、今、
すぐにお医者さんに電話するから」
「いたたたた・・・あのね、どうも
お腹も打ったみたい・・・」
よし、じゃあ打撲部分は顔・腹部・膝。
「顔ということはきっと頭も
ぶつけていらっしゃいますよ」
と隣からわが夫が囁き
うむ、ではそれも忘れずに伝えねば、と
私が電話の受話器に手を伸ばしたところに
戸棚で何か探し物をしていたわが父が
妙に目の据わった決然たる表情で
「Norizo、悪いが俺の代わりに電話をしてくれ。
俺は最近ちょっと耳が遠いから」
「父よ、勿論そのつもりです、お任せあれ」
「頼んだぞ。じゃあこれが電話番号だ」
父が戸棚から持ってきたのは
わが母のかかりつけ『歯科医』の診察券で。
「・・・父よ、私は救急に連絡をしようと
考えていたのでございますが」
「うむ、だが秀吉は歯を折っている。
だからまず歯医者さんに連絡しないと」
「・・・父よ、確かにお母様は
歯もぶつけていらっしゃいますが
歯をぶつけたということは
顔を、そして頭を打ったということで、
ここはまず救急119番ではないでしょうか」
「うむ、だがまずは最初に
歯医者さんに予約を入れないと。
年末だから歯医者さんも混んでいるだろうから!」
普段は冷静沈着この上ないわが父が
あの状態であそこまで歯医者にこだわるとは
あれは間違いなくパニックゆえの奇行であったと
今の私なら断言できるわけですがまあその時はね・・・
しかもこの非常事態の現場に
この直後わが弟2号が
その息子(わが甥3号)を連れて登場し
(『年末のご挨拶に来ましたー!』
『おじーちゃんおばーちゃん遊ぼー!』)
すったもんだの挙句(詳細は略す)、最終的に
わが母は救急車に担ぎ込まれたのですが、
一部始終を目撃したわが夫がしみじみ言うには
「三成さんも君も君の弟君も普段はそれなりに
『出来る人』とされているのが、あの時は皆
見事に『冷静な判断力』を失っていたでしょ。
あれはね、君たちが全員、君のお母様、
秀吉さんのことを愛しすぎているのが原因ですよ。
君たちは愛に弱い一族なんですよ。
だから君の愛する僕の緊急時に君が動転するのは
仕方のないことなんじゃありませんか」
おかげさまで母はその後無事に治療を受け
経過も順調、現在は元気元気でございます。
愛に弱いあなたも強いあなたも
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