保護犬収容施設に長期滞在中の
我が家に引き取るか否かで
陰湿な攻防を続けていたわが夫婦。
夫(英国人)がどうも犬に対して
相当こじらせた感情を
抱いている様子であるため
ここは時間をかけるが得策、と
朝に夕に施設のHPでボブの安否および
その脱力感に満ちたスケベ顔を確認しつつも
表面上はそれなりに犬の話題を避け
時折思い出したかのようにチクチクと
笑顔の舌戦を繰り返す日々。
実は私は何でしたらこのような生活を
12月中旬、某旅行から帰ってくるまで
延々と続けるつもりでいたのです。
間接的な攻撃を繰り返し、
相手を疲弊させつつも油断させたところで
南の島へ約1週間、そこからから帰国して
身も心も弛緩しているでろう敵(配偶者をここで
まさかの『敵』呼ばわり)を総力を持あげて急襲、
一気呵成に勝負をつければこっちのもの、と。
しかしそう時間をかけていられない事態が
ここで発生したのでございます。
・・・長いこと書き綴ってまいりました
この犬物語でございますが、
そろそろ話は終局に向かいます。
私が言うのも何ですが、皆様、
前もって私に対する『慰めの言葉』を
ご用意の上、あと数日間おつきあいください。
夫を正攻法で陥落させることは諦め
まずは外堀を埋める作戦に舵を切ってから
それは4日目のことでした。
その日は朝から色々用事がありまして
ほぼ一日中を外で活動した感じで
夕方ごろに家に帰りふうやれやれ、と
いつもの通り何気なく
保護犬収容施設のHPを開いたところ。
ボブの記録がHP上から消えていました。
もちろん最初は
「とうとうボブに貰い手が見つかったのか!」
と素直に考えた私でしたが、しかし待て。
ここ数週間毎日のように
該当HPを覗いていた私は知っている、
そうした場合のここのHP表記は
それまでの『ボブ:引き取り手募集』から
『ボブ:引き取り手確定、
皆さんありがとうございました、
ボブ、幸せになるんだよ』に変わるもの。
このように1頭の犬の存在が
HP上から完全に消えてしまった事例は
少なくとも過去私が気が付いた限りでは、ない。
慌てて直近の記録を確認しようと
画面をせっせとスクロールするも
他の犬の情報はわんさと出るのに
肝心のボブは『ボ』の字さえも見当たらない。
私の愛するあの間抜け面の
不細工写真もどこにもない。
HP上のすべてのボタンをクリックし
すべてのページに目を通すも
ボブは完全に消えている。
これってどういうことかしら・・・
まああの施設に何度か足を運んでいる私は
件の施設にお世話になりながらも
HPに記載されていない犬が
何頭かいることは知っていて、
でもそれはその犬が引き取り手を
募集していない場合に限られるんですよね。
・・・ボブの身に何か問題が起きて
『譲渡不可』な状態になった、とか・・・?
つまり健康疾患的な・・・?
でもあの子はついこの間ちゃんと
獣医さんの定期検診を受けた様子だったし
最後にあった時も鼻は濡れていたし
足取りもとても元気そうだったし。
でも老犬だし突発的な何かが
起きる可能性はゼロじゃないかしら、
つまりいきなりもしや突然・・・
いやいやいや!
あの子はそういう
病弱なタイプの犬ではなかったし!
雑種は心臓も強いというし!
じゃあ何だ?
そもそも病気やら何やらで
譲渡が不可能になったのなら
あの律儀な施設スタッフのこと、
間違いなくその旨をHPで告知するはず。
告知できないような場合が
あるとしたら、それは・・・
それは・・・
「夫。夫よ、ちょっと質問があるのだが」
「・・・妻ちゃん、どうしたんですか、
君なんか顔つきが奇妙になっていますよ」
「いや、ちょっとお尋ねしたいんだがな、
この国においては・・・つまり
スコットランドおよび英国においては、
健康あるいは飼育上に何の問題もない犬を
人間側の都合で安楽死させるような
そういう考え方は存在しないよな?
そういう犬はたとえ飼い主が見つからなくとも
最期まで慈善団体が面倒を見る、いや、
面倒を見ようと考えたからこそ
そうした慈善団体が創設されたわけだよな?」
「ボブに何かあったんですか?」
「あの施設のHPからボブの名前が消えたんだ。
最初は譲渡先が決まったのかと思ったんだが
それなら名前や写真がHP上から
消される理由がないんだよ。そういう場合は
『譲渡先が決まりました』って告知が載るはずなんだ。
でもそういうのは一切なしに、過去の記事が
すべて消去されているんだ、これはどういうことだ?」
その瞬間、夫の顔から
すうっと血の気が引いていったのは
思い出すに恐ろしい光景でした。
「・・・仮にも慈善団体を名乗る施設が
問題のない犬をどうこうすることが
現代英国で許されるとは思えません。
仮にそうした処置に至るにはちゃんと
管轄の獣医や警察の意見というか
命令のようなものが必要はなずです」
「そ、そうだよな!」
「ただ獣医によっては諸般の事情を鑑みて
無理矢理に健康問題をこじつける場合が
絶対にない、とは僕としても
言えないところが難しいんですが・・・」
(言えない理由の事例はこちら)
「いやいや、でもボブの場合、
特に問題となる
『諸般の事情』は存在しなかったし!」
「でもあの犬、何か月
あの施設に滞在していましたっけ。
確か記録を更新中でしたよね?」
「・・・」
「・・・」
「いや、こんな悪いことを勝手に考えては
施設に失礼だ。だってあの施設の人は
皆親切で優しくて犬を愛していて、
ボブも非常に可愛がられていたじゃないか」
「でも現場の職員はそうでも上部の人は
また違った観点、予算だの効率性だのから
物事を見る傾向があるものですからね」
・・・いやいやいや!
問い合わせをしようにも時刻はすでに
夕方過ぎ、施設はもはや無人。
これは明日の朝一番で
向こうに電話をするしかない、と
我々は床に就いたのでございます。
続く。
そして我々は二人とも
なかなか寝付けなかったのでございます
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