グラスゴーの

とある通りに面した

一軒のレストラン。

 

駅も近いというのに

道に人通りはほとんどなく、

ご近所のフィッシュ&チップ屋さんや

刺青屋さんは昼も過ぎたというのに

まだお店を開けていない。

 

「ここが君の言っていたお店ですよ」

 

夫(英国人)が示す先には

大きなドアがひとつきり、

お店の中が覗けるような窓はなく

・・・これ、もしかしてレストランじゃなく

持ち帰り専門店なのかしら・・・?

 

でもそれならそれで戸を開けて

カウンターが見えるようにしておかないと

お客だって寄り付きにくかろうよ。

 

「・・・今日はこれ・・・お休みなのかな?」

 

「いえ、そこに『開店中』って

札が出ていますよ」

 

「いや、私は初見のお店に関しては

『お店にお客が入っているか』を

入店の判断基準にしたいところでさ、

しかしこれは判断も何も

『外からお店の中が見えない』って・・・

ちょっと私としてはハードルが高いぞ」

 

「妻ちゃん、ここにメニューが出ていますよ。

ランチのセットメニューが前菜とメインで

4ポンドと99ペンスですって」

 

「4ポンドと99?それって日本円にして

800円しないってことだろ?

・・・英国の外食は日本のそれの

倍のお値段であるのが基本の基本、

これは色々考えねばならんぞ」

 

「何を考えるんです」

 

「このお店は大当たりか、

もしくは大外れである、この2つの

可能性しかない、ということだ」

 

「じゃあ入ってみましょう」

 

「いや夫、私はもう少し考えて・・・

おい、何だこりゃ。どこがお店なんだ」

 

ドアを開けた我々の目の前に飛び込んできたのは

飾り気も何もない非常階段のような鉄製の段々で。

 

「この階段の上がお店らしいですよ」

 

「夫よ・・・これは色々怪しいぞ。

引き返すなら今が最後の機会ではなかろうか」

 

「ネットでこのお店の評判がいいって

最初に言ったのは君でしょう?」

 

「いやでも私が言うのも何だがな、

ネットの情報というのは

鵜呑みにすると危険なんだよ!

お店の正面階段を

非常階段状態にしたままで

平気でいられるお店って奇妙だぞ!」

 

「・・・お店は二階にあるみたいですよ。

階段をちょっとのぼって中を覗いて

それで君の気に入らない感じだったら

こっそりそこで回れ右をしましょう」

 

なるほど、と階段を上るも

何せそこは鉄製非常階段、

どれだけ静かに歩こうとしても

一段一段足を乗せるたびに

古いサスペンス映画の効果音のように

ガツーン!ガツーン!と

高らかな音が鳴り響く。

 

 

 

 

夫よ、これ、『こっそり』って無理だよ!

 

しかし階段の一番上の段に立ち

2階部分を覗いたところ

・・・あら、何、これ、雰囲気いいじゃない。

 

店内は広々としていて

大きな窓から自然光が射しこんでいて

テーブルはゆったりと配置されていて

窓の反対側の壁にはバーカウンターがあって

酒瓶やら何やらがピカピカ光っていて

店内のそこここにエキゾチックな雑貨が

さりげなく置かれていて。

 

「・・・悪くないな」

 

「妻ちゃん、僕はこのお店、

試してみたいですよ。

味はどうだかわかりませんけど

あの椅子は座り心地がよさそうです」

 

「ふむ。だがこれ、営業中なのか?」

 

その時点で店内にいたお客は3人。

 

昼飯時を外したとはいえ

『14時』にこのお客の入り、

これはどう判断したものか。

 

そして何より、この広い店内を

どれだけぐるぐる見回してみても

店員さんの姿がまったくない。

 

・・・ちょっと!

 

私が悪い人だったら

そこにある高そうな花瓶を抱えて

外に走り出ちゃうかもしれませんよ!

 

階段の上り口で動きを止めた

我々2人に声をかけてくれたのは

お食事中の老夫婦でございました。

 

「あのね、このお店、お席は

どこに座っても大丈夫みたいよ。

そのうちウェイターさんが

戻ってくるでしょうから

座ってお待ちになりなさいな」

 

はあ、では、お言葉に甘えて。

 

私と夫は窓際のテーブルに

向かい合って腰を下ろしたのでございます。

 

続く。

 

 

生き馬の目を抜くグラスゴーの

中心地のさらにど真ん中で

あの無防備さは何なのだ、という・・・

 

性善説に基づいた

運営方針、というのでしょうか

 

さて肝心のお味については

明日の記事をお楽しみに

 

レストランは

混雑している方が良し、なあなたも

閑散としている方が好き、なあなたも

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