我が家は公道である車道から
少し引っ込んだところに建っています。
私道と行動の境目のところに
『我が家はこちら』という標識のようなものを
掲げてはいるのですが
気を抜くとこれが
周囲の灌木の葉に隠れてしまい
配達の皆様に非常に不評。
そこらへんの手入れをすると同時に
標識の周囲に春の花の球根を埋めようと
先日の好天日に作業を敢行。
これは夏の写真
枯れた灌木の枝を剪定ばさみで切り
手押し車に乗せて家の裏手に運びつつ
標識の立つ小さな盛り土のところで火をおこし
枯葉や木端はそこで燃す二段作戦。
冬晴れの空に立ち上る白い煙は
気持ちの良いものでございます。
スコットランドの冬は基本的に湿気が強いため
あまり気にしなくても大丈夫かとは思うのですが
そこは私が冬は空気の乾燥が絶対である
東京砂漠出身であるためか
焚火が大きくなりすぎないよう気をつけながら
せっせと仕事を続けておりました。
そんな中でふと気になったのが
時折通りかかる自転車乗りの皆様のご態度。
何か皆様・・・私の姿と焚火を目にするなり
一瞬こう・・・『ひるむ』様子があるというか・・・
「こんにちは!」
とこちらから元気に挨拶の声をかけると
あちらも気を取り直したように笑顔になって
「やあ、おはようございます!」
みたいなことは言ってくれるんですけど・・・
何かな、もしかしてこんなところで
焚火をしちゃいけなかったのかな、
あれは家の裏手でやるものであって
正面入り口で火を焚くのは
縁起が悪かったりするのかな、
それとも私の火の取り扱いが
何か不適切だったりするのかな、と
不安になりながらも
枝切り作業を続けておりましたら
一台の白いバンがすーっと
通り過ぎて行ったかと思ったら
少し先できゅっと一時停止して
そのままするするとバックで戻ってきて
運転席の窓ガラスが開き中から運転手さんが
「やあ、こんにちは」
あら、礼儀正しい人だこと、と私も笑顔で
「こんにちは」
運転手さんはちょっとためらった後に
「いや、さっきもここを通ったんだけど、
その時に火と煙が気になってさ。
何だろうと思っていたんだ、けど、
それはアンタの焚火なんだ、そうだね」
ああ、焚火の周囲に人がいないと
そりゃ通りがかりの人は不安になるわよね、と
「はい、そうです、私の焚火です」
「ああ、そうなんだ。うん。アンタの焚火だ。
それで・・・それでさ、そこってその、
焚火をするにはちょっと珍しい場所だよね。
普通はもっと家の裏手でやるでしょ」
あ!やはり変でしたか!と焦った私は
「すみません、こうした場所で焚火をするのは
反社会的な(antisocial)行為だったでしょうか!
私は決して英国の社会秩序を乱したいとは!」
私の言葉に今度はお兄さんが焦った風に
「いやいやいやいや!
どこで焚火をしようとそれは自由だし!
たださ、どうしてわざわざ、そんな、その・・・
そんな妙な場所で焚火を作ろうとか思ったの。
普通そういうところで焚火はしないでしょ。
俺の純粋な好奇心から尋ねているんだけど」
「ああ、それはですね、私はここに
球根を埋めたいと思ったからです」
「・・・え?」
自分の発音が悪かったのかと思った私は
『B』と『L』の発音を強調しながら
「球根(バルブ、Bulb)、花のバルブです」
「・・・えっ、何?」
「花の球根、すなわちヒヤシンスですとか・・・」
「うん、それはわかる。わかった。
でもどうして花の球根と焚火が関係するの」
「よく聞いてくださいました、ご説明しましょう、
私はここにクロッカスなどの球根を
植えたいわけですが、ご覧のとおり
ここらへん土の表面には
雑草がはびこっておりまして。
焚火によってこれらを一気に
根絶やしにしようとしているのです。
焚火で雑草がすべて燃えたら
改めて土を足して球根を埋めようと、
そういう考えに基づいた焚火なのです」
私の説明を聞くうちにお兄さんは何故か
口が半開きになっていき、後半は
ほとんど『見てはいけないもの』を
見る目つきで私のことを眺めてきて、
気がつけばお兄さんの隣、
助手席に座る仲間らしき殿方も
「・・・うわあ」みたいな顔をして
私を見詰めていて、
何だ、いったい何なんだ。
しかし私が彼らの態度の真意を
問いただす前にちょうど風が
焚火の煙を車のほうに向け、
それを幸いと運転席のお兄さんは
わざとらしく咳き込んでから
これまたわざとらしい作り笑顔で
「・・・じゃ!俺ら、もう行かなきゃだから!
焚火、楽しんでね!お会いできて光栄でした!」
白いバンは全速力で走り去っていきました・・・
何なんだ!
夕方、家に帰ってきた夫(英国人)に
この焚火の顛末を話したところ
「何なんだってそりゃ
誰だってそういう態度にもなるでしょう」
「やはり公道近くでの焚火は
英国の社会良識に反していたのか」
「そうではなくて。君は色々なことを
忘れているようですが、まず第一に
僕たちの家は田舎にあります。
車を運転している人は
そもそもここらへんで道端に佇む人を
目撃するとは予想もしていないでしょう」
「それは言い過ぎじゃないか?」
「じゃあ君は自分が車を運転する時に
ここらへんで他の人の姿を
見かけたことがありますか。
行楽目的の自転車乗り以外の人を」
「・・・うん、滅多にないな。なるほど、わかった。
私の存在がすでに彼らには珍しかったわけだ」
「そうです。人の姿を見ると思っていない場所で
思いがけず人の姿を見る。しかも焚火まで見る。
これでもう十分世の人にとっては驚きなわけです。
それに加えて君はまたほら、外国の人でしょう?」
「・・・ああ、なるほどな。私も北海道の山奥の
人気のない道を車で走っている時に
突然煙が流れてきて人の姿が見えて
しかもその人が外国人だったら
やはり二度見をするかもしれないな」
「その上、その外国人に話しかけてみると
妙に流暢な言葉で『球根のために
焚火で雑草を根こそぎにしていマース』とか
理に適っているんだか適っていないんだか
よくわからない説明を
堂々とされてしまうんですよ。
そんな展開、誰も想像できませんよ」
「・・・つまり私はあの車の運転手に
今週末のパブでネタにできる
素敵な話題を提供した、ということか」
「今週末どころか、彼はこの冬の
すべてのパーティーを
このネタで乗り切れると思いますね」
お役にたって何よりです。
焚火で無事に雑草除去は済みましたので
近いうちに球根を植える予定です
・・・球根は雪が降ってから
植えても大丈夫ですよね?
時間との戦いが顕著になってきた
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