というわけで現在わが母
(イメージ武将:豊臣秀吉)は
右手にギプスをはめています。

怪我をしてからここまで家事全般は
わが父(イメージ武将:石田三成)が
手がけてきていたとのこと。

・・・うちの父に家政ができたのか・・・?

特に炊事。

が、娘の不安はこのたびも
取り越し苦労でございました。

朝からしっかり一汁三菜、
食後の後片付けも問題なし。

問題はむしろ怪我人のほうにありました。

右手が使えず苛つく母の気持ちはわかる。
もどかしい気持ちもわかる。
ハウスキーピングに慣れない
父の仕事のいちいちに
口を出したくなる思いは理解できる。

しかしだ。

朝食後、箸を置くか置かないかのうちに
わが母は妙にすました声で
「朝ご飯の後はリンゴとか食べると
消化にいいわよね、
お母さんが手を使えたら
皮を剥いてあげるんだけど」

「・・・私は別にリンゴは必要ないかな、
お父さんはどう、リンゴ、食べたい?」

「別に食べなくてもいいかな」

父と娘の消極的姿勢に母は
「でもね、台所にリンゴがあるのよ?
野菜とか果物は新鮮なうちに食べないと
新鮮じゃなくなっちゃうのよ?」

「お母さん、リンゴが食べたいなら
食べたいと素直に言ってください」

「別に食べたいわけじゃないのよ、
ほら、お母さん、手を怪我してから食欲ないし」

「お母さん、お母さんの朝食の量は
『食欲がない』人の量じゃないですよ」

母と娘の不毛な会話をよそに
台所に行きリンゴを洗い
その皮を剥き始める父。

父よ、貴方、優しいなあ・・・

感心する私の隣でしかし母は
「三成さん、リンゴを剥いてくれるのは
嬉しいんだけど、そのナイフは
リンゴ剥きには向いていないと思うの。
同じ果物ナイフでもね、もう一つのほうが
リンゴにはちょうどいい大きさなのよ。
まあそのナイフでもいいんだけど」

「母よ、その態度はひどいですよ」

「あら、私最初に『嬉しい』って言ったでしょ、
ただナイフが違うって言っただけよ!
・・・あら、三成さんはリンゴを
そういう風に切るのね、私はね、
大きなリンゴは最初に半分に切った方が
もっと切りやすいと思うんだけど」

「母よ」

「違うわよ、私はただ三成さんのやり方が
私のやり方とは違うなってことを言っただけ。
ねえ三成さん、ところでそのリンゴ、
切った後どのお皿に載せるの?
最初にお皿を用意しておいた方がいいでしょ?」

黙って席を立ち皿を用意する父。

そんな健気な姿に追い打ちをかけるように
「お皿を出すならついでに
フォークを出した方がよくないかしら」

引き出しを探りフォークを出す父。

「あ、私はどうせ手で食べるから
私の分のフォークは必要ないわ」

母の分のフォークを引き出しに戻す父。

そして静かに再び自分の席に座り
リンゴの皮むきを再開したところに
恐るべきわが母は無邪気な声で
「あ、でも、リンゴを食べるなら
その前に本当ならお茶を飲みたいわね」

「母よ、貴方の態度は最悪だ!」

「あら、どこがよ!」

「どこもかしこもです!
私は母のことを心配して帰国しましたが
東京に戻ってきて24時間しないうちに
母よりも父のことが心配になっています!」

「何を言うの!怪我をしたのは私よっ?」

醜い母娘喧嘩を繰り広げる我々に
父はそっと皮をむき終えた
リンゴを差し出してくれたのでした・・・

父が皮を剥いてくれた
リンゴは美味しかったです。

エッジはどこも潰れていましたけど。

そういうこと言う?


・・・こういうことを書いちゃうあたり、
私も呪われた母の血を受け継ぐ自覚が
しっかりあるわけでございます。


リンゴだけでなく万事が万事
この調子であるとご想像ください

・・・三成君、偉いよ、本当

世の怪我人・病人の皆様、
周囲の人のお世話になるときは
清く・正しく・美しく、これですよ

私も色々身に覚えがございます

お互い気をつけましょう

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