セールス電話がかかってきました。
「もしもし、こんにちは。
ミスター・エックスとお話しできますか」
注1:『ミスター・エックス』は仮名(当たり前だ)、
実際はわが夫(英国人)の名前がここに入る
注2:この文章を書く前に夫に
「君の仮名、何にする?
『ミスター・イーストウッド』とかにする?」
と尋ねたら、しばしの黙考の末
こんなベタな名前を選びやがって(以下略)
こう見えて私はセールス電話に対し
声を荒げて怒りを表明したりはしない人間です。
いや、あっちもお仕事ですからねえ。
ただまあ、電話でいくら美辞麗句を
並べたてられたからといって
こちらの財布の口を
緩める予定はまったくないので、
早めに電話を切ってあげるほうが
それは相手にとっても親切というもの。
というわけで、ここはシンプルに
「いいえ、貴方は
ミスター・エックスとはお話しできません」
「・・・はいっ?」
あら、何、その反応。
「はいっ?とはどういう意味でしょうか?」
「いえあの・・・こほん、あの、
ミスター・エックスとお話できますか?」
「いいえ、先程申しましたように、貴方は
ミスター・エックスとはお話しできません」
「・・・」
「・・・」
何故黙る。
私の答えは文法的にも
間違ってはいないはずだぞ!
「あの・・・それは何故でしょうか」
「何故でもです」
「・・・」
「・・・」
「えーと、わたくし、実は
某電話事業者から
お電話差し上げているのですが」
「はい」
「お宅の電話契約についてお話がしたくて。
つきましては、ミスター・エックスでなくとも、
そうした件についてお話ができる方は
そちらにいらっしゃいませんでしょうか」
「そうした件について貴方と
お話が出来る人間はここにはおりません」
「あの、どなたでもよろしいのですが」
「ここには誰もおりません」
答えながら私は自覚しておりました、
これは昨晩、寝る前に読んだ
村上春樹が私に少々影響しておるな、と。
「どなたも・・・いらっしゃいませんか・・・」
「おりません」
「・・・それは、残念です」
「貴方が残念なことが、私も残念です」
「・・・」
「・・・」
「ではその、後程また
おかけ直しさせていただきます」
「ありがとうございます、ですが
迷惑ですから止めていただけますか」
「・・・」
「・・・」
「失礼いたします」
「さようなら。よい夕方を」
こんな感じで電話は切れたのですが、
惜しい、私としては
最後のところで彼女に是非
「貴方とお話はできませんか」
と言って欲しかったのです。
そう言われたら私は透明な声で
「貴方のおっしゃる
『貴方』とは私のことですか?
私とはいったい誰ですか?」
と答えるつもりだったのに・・・!
それは君だよ、クミコ。
電話の向こうに広がる不条理の世界。
油断は禁物なのです。
私は若い頃(高校生・大学生時分)は
村上だと龍派だったのですが
最近は春樹もいいよね派です
ハルキストな貴方も
アンチ・ハルキストな貴方も
お帰りの前に1クリックを
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そして僕はクリックボタンを押し、
次に何かが起こるのかを待った。
