釧路にて

バス通りを早足で繁華街に向かっていたら

近づいてくる拡声器の音。

そう、当時世間は参院選真っ最中。

「夫(英国人)よ、あの叫び声こそが

かの有名な日本の選挙運動です。

手を振ればまず間違いなく

金切り声でお礼を言われます、

面白いのでやってみましょう」

「・・・君の支持政党なの?」

「違います。でもこっちが手を振ったら

『ご声援、ありがとうございます!』

って絶対言います。賭けてもいい」

道の先からゆっくりと姿をあらわす選挙カー。

「ねえ、あの女の人、何を言っているの?」

「政党名の連呼ですね」

「・・・あれ、効果あるの?

ただうるさくて迷惑なだけでは・・・?」

「その通り、よく気がついた。

でもあれが彼女の仕事なのよ。

しかしまあここは手を振ってみよう、いくぞ!」

選挙カーに向かって大きく手を振る私たち。

その姿に気がついたウグイス嬢

「ごっご声援、ありがとうございます!

手を振ってのご声援、本当にありがとうございます!」

・・・たぶん彼女は少なくとも1時間くらい

通行人すべてに無視され、にらまれ、

ただ空しく喉を酷使していたんだろうなあ、

と思わずにはいられない

切実なヨロコビに満ちた声でした・・・

いや夕暮れの釧路は

人通りもまばらな町だったんですよ。

そしてそのウグイス嬢の声にかぶさるように

「ご声援!あーりがとおーございますー!」

バンから身を乗り出し叫ぶ中年男性。

反対側の窓で手を振っていた男性も

あわてて我々側の窓に移動し盛大な笑顔。

「ありがとうございます!

あーりがとうーございますー!」

「ね、言ったとおりでしょ」

夫を振り返ると、彼は声もなく笑っていました・・・

「いいものを見せていただきました。

で、これが日本のスタンダードな

選挙キャンペーンなんですか」

「どうもそうらしいですよ」

「どうでもいいけど

あんな大音量の選挙運動を英国でやったら

絶対に迷惑がられて票は取れないよ」

・・・でもなあ、英国でもこの間の選挙のとき

政党名をぶら下げた小型飛行機が投票日当日

街の上空を旋回していましたが・・・

あのエンジン音は

そこらの選挙カーよりうるさかったような気もする・・・

ちなみにその政党は選挙で躍進していました。

ところで私は若かりし頃一度

ウグイス嬢のバイトをやったことがあるのですが、

これまでその業務内容を夫に説明しても

「そんな仕事本当にあるの?また君の冗談でしょ」

といまひとつ信じてもらえていませんでした。

今回の実例目撃により、夫は

「ウグイス嬢とは何か」

しっかりと理解できた模様です。

よかったよかった。