
李登輝「台湾の主張」への佐高信さんの「書評」
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前に紹介した、佐高信さんの日刊ゲンダイ連載「週末オススメ本ミシュラン」での李登輝著「台湾の主張」篇ですが、どうも佐高さんに都合のよいところの、カット&ペーストが目立ち、本の内容を追っていないのが目立っていると思います。
のっけからの「DV夫のトランプも、それに媚びて従う妻のような高市早苗も、共にアジアへの視点が決定的に欠落している」なる表現ですが、ドナルド・トランプ氏は確かに性的不品行や、性的な暴言、エプスタイン疑惑なども伝えられていますが、DV(ドメスティックバイオレンス)で訴えられたり、離婚原因になったりはしていません。神は細部に宿るは久野収さんの口癖だったはずですが、、。ドメスティックが家庭内という意味だってことを佐高さんが知らない?まさか?
「事実はどうでもいい、日米関係をDV夫と妻に例えているんだ」という反応も聞こえてきそうですが、DV被害を一手に被っているのが主に沖縄だということを考えれば、単純なDV夫婦とするのも、まさに乱暴な比喩だと思います。
リー・クアンユー発言と李登輝発言を並べての日本の「壊憲と軍拡」批判
シンガポールの元首相リー・クアンユー氏の「(日本に軍事力を与えることは)アルコール依存症患者にウイスキー(ボンボン)を」という比喩は1991年当時の日本での講演内のものらしいですが、リー氏がシンガポールの日本による占領時代の経験(過酷な中国系住民支配、虐殺の目撃)から日本人の国民性に全かゼロかという極端さを感じ、批判的に述べたものと考えられています。しかし、その後リー氏は中国の経済的、軍事的台頭を感じ、日本にも「適切な役割」を求めることも多くなった、と言います。
また、李登輝氏の発言「日本の場合には、憲法問題がからんでくると、国内だけでなくアジア諸国にも反発が生まれることになる。憲法九条の改正ということになれば、混乱は必至といえるだろう」はその通りに引用されていますが、この1999年の「台湾の主張」をみると、その後に「そこで日本としては、一つはこうした憲法論議に向かわずに、アメリカ軍への協力の範囲を議論する方向が考えられる。きわめて実務的なレベルの議論として、日本の政策が実態的に変わっていくということが考えられる」と李登輝氏は続けています。つまりは安倍政権における集団的自衛権の部分的な合憲化を先取りした発言と考えられます。また、その前にジョセフ・ナイのレポートを引き「アジア地域の平和のためにはアメリカ軍の10万人常駐必要」を認めています。佐高さんの理想や社民党のような非武装中立は非現実的と見ています。
それと李登輝氏の世襲批判、長いから引用しませんが、大体は正しいです。そして佐高さんは高市は世襲の麻生太郎、鈴木俊一を幹部にして支えられているから脱世襲ではないと決めつけていますが、そこまで厳しく反世襲ならば、何故2017年の総選挙で山花貞夫元社会党委員長の子息の山花郁夫氏の応援に行ったのか?(それを隠そうともせずアッケラカンと週刊金曜日で報告している)
また加藤紘一氏の三女鮎子氏が2013年に山形3区で後継名乗りを上げたときに荘内日報連載コラムの思郷通信で「鮎子さんは加藤紘一氏の地盤でなく思想を継承した」と、なぜ太鼓判を押したのか?これらのことについて御自身の説明が必要だと思います。
そして李登輝氏の登場、後継者指名したのは蒋経国総統。前総統の蒋介石氏の子息で実質的な世襲と言われていたのは皮肉なことでした。
なお、櫻井よしこさんもとりあえずは世襲は否定。石原慎太郎氏は実力主義の立場だったようです。(慎太郎氏の子息たちをみれば怪しいですが)
「台湾の主張」李登輝著/PHP文庫
DV夫のトランプも、それに媚びて従う妻のような高市早苗も、共にアジアへの視点が決定的に欠落している。
かつて、シンガポールのリー・クアンユーは「日本に軍事力を持たせることは、アルコール中毒患者にウイスキーを与えるようなものだ」と言った。また、台湾の李登輝はこの本で、「日本の場合には、憲法問題がからんでくると、国内だけでなくアジア諸国にも反発が生まれることになる。憲法九条の改正ということになれば、混乱は必至といえるだろう」と警告している。しかし、高市とその支持勢力は、そうしたアジアの声に耳を傾けず、改憲ならぬ壊憲と軍事力の大幅な拡大に踏み出している。
それにしても李と親交があると言っていた石原慎太郎や、この本の推薦者の櫻井よしこはまともにこの本を読んだのか。彼らの日本語能力に疑問を持たざるを得ないほど、李の主張と彼らの行動は隔たっている。
司馬遼太郎と同じ1923年生まれの李は台北高校から京都帝国大に進んだ。卒論は「日本帝国主義時代の台湾における農業問題」である。その李が日本停滞の原因に「世襲制がはびこってしまったこと」を挙げている。「日本人はいまだに優秀で、若い人でも『この人は、政治家になると伸びるのではないか』と思われる人に会うことは少なくない。しかし、その人が本当に政治家になるにはどうすればいいかを想像すると、とても政治家になることを勧めるわけにはいかなくなる。日本で政治家になろうと思えば、一番の早道は政治家の子供に生まれるか、政治家の子女と結婚すること、あるいは政治家の秘書になって気に入られることだろう。しかし、この道が現在の日本で優れた政治家を生まないことは、もはや証明されたも同然である。現在の政治家のほとんどがこのコースをたどって政治家となり、その結果として現在の停滞を招いているのだ」
高市は非世襲だが、自民党の副総裁に麻生太郎、幹事長に鈴木俊一という世襲議員を据え、彼らに支えられているのだから脱世襲ではない。
李はまた、日本人はアメリカにびくびくしながら生活しているとし、アメリカに追随してきたことによって、アメリカがわからなくなっている、とも指摘している。DV夫のトランプに怯える高市にそのまま当てはまる警告である。



