老いと共に深まる“音楽の味わい”
若い頃の私は、速くて正確なパッセージを吹けること、音程やアンサンブルを完璧に整えること、
それが「良い演奏」だと信じて疑わなかった。
そして、実際にそれができるかどうかで、自分の価値を計っていたように思う。
けれど今は、違う。
テンポは少し遅くなったかもしれない。テクニックも、かつてのようにはいかない。
けれど、それでも――いや、だからこそ――今の自分の音には、「味わい」があると感じている。
たとえば、長いフレーズを息深く吹きながら、その一音一音に
「この人生で、私は何を見てきたか、何を大切にしてきたか」を込めるような気持ちになることがある。
昔はなんとなく通り過ぎていたような静かな楽章の中に、
深い喜びや、静かな祈りを感じることがある。
それは、きっと「年を重ねたからこそ感じ取れる音楽」なのだと思う。
老いとは、技術の衰えではなく、感受性の変化。
そしてその変化こそが、音楽をより深く、より豊かにしてくれる。
今の私は、自分の音に嘘をつかない。飾らず、そのままを吹く。
その音が、以前よりも静かに、でも確かに人の心に届いていると感じるとき、
私はこう思う。
「今こそ、音楽の本質に近づいているのかもしれない」と。