このような施術をするようになったら。
私はもう表には出ないかもしれないな…。
そのような思いがよぎりながら遂げた、
外科的手術のような、出産のような施術でした。
その日、私は今までになく
いくつもの規定違反を犯していました。
私には自分の中でいくつかの規定があり
その絶対条件は、
『相手のからだの意に添うこと』
『“私”という主観を捨てること』
そこを特に厳しく気を付けています。
ですから、よく、櫻井えみの施術は
人の傷を暴くかのように言われますが、
それは違います。
どんなに深い傷があったとしても
そこに誘導された時にしか
私に触れる事はできません。
そのようにしか、
私は人の体に触れられないのです。
今思えば、一年以上前に
彼女が初めて施術を受けに来た時から
今日の施術は始まっていました。
その時はその深い傷の片鱗だけに触れ、
何かあるのだな。
そして、それがすべての核なのだな。
と、その『何か』の存在に
ただただ気付いただけでした。
気付けば発動する
というのが体の掟です。
それから一年かけて徐々に
その『何か』は姿を表してきました。
施術中はそれに気付けなかったので
ぐいぐいその核に迫っていく
自分が怖かったのですが、
もう一年以上前に
体との合意ができていたのですね

私が彼女の体の中にその核を捉えた時、
まるでもぐら叩きのもぐらのように
それはぼこぼこと暴れだしました
一度手を離したら二度と掴めない

これは見失う訳にはいかない
じっとりと脂汗をかきながら
私は初めての緊張感に包まれました。
痛がり身をよじらす彼女
ますます緊張する私
『手を離そうか?』
『このままでいいの?』
『このシステムでこれから先もずっと生きていくの?』
私が捉えたその核は
絶対に一番でなければならない。
目立たなければならない。
皆に好かれなければならない。
そして、それができなければ
自分はこの世に存在できない。
という所にまで繋がっていました
『存在することができない』
それは=『死』を意味します。
彼女にとって、
このシステムを遮断するということは
『死』と直結するのです。
まさに命がけ。
怖い
ものすごく怖い
緊迫した空気の中
『痛い』と『怖い』の押し問答が
長い時間続きました。
もうそのシステムは十分やったじゃないか
やれる所までやりきったじゃないか。
それで疲れはててここに来たんじゃないか。
新しい世界を見ようよ。
一年間で培った信頼関係が
その核を溶かしていきます





うっかり
ひるんだその核は
はたと気付いて動きを止めて
固まってしまいました

「これ以上は
」
と言わんばかりに石になっている


分かってもらえて嬉しい

安心した

でも先には通さない

だって死ぬから
存在できないかもしれないから…
絶対にこの先は通さない
幸枝を守る

そうやって貝のようにだまってしまいました
『ここまでか…
』
痛みで意識が朦朧としていく彼女
その隙に行方をくらまそうとしている核

私の手の中で沈んでその姿が見えなくなっていく
『やばい
』
とっさの判断で私は力を込めました
逃がしてはならない
まだちゃんと話してな~いっ

『幸枝ちゃん!起きて!ここをちゃんと見て』
『うまれるよ
』
意味も分からず、そう叫んでいました🤣
すると小さくなった核がまた暴れだした
『痛い痛~い』
と身をよじらせながらも、
『もうこの古いシステムは絶対いらない
』
と叫ぶ決意の固い彼女

一方、彼女の存在が危ういからと
決してどけてはくれない核
もう。
私にはどうすることもできない…。

数時間が経過していました
二人とも、体力の限界です
その時
『本当にこのままでいいのか?』
『この古いシステムで生きた先にあるものはなんだ?』
『ちゃんとこっちを見ろ!』
『人に好かれてなんになる?』
『死ぬんだよ‼️』
強烈な言葉でした。
彼女の実の兄は、
勉強も一番。
かけっこも一番。
心優しくて、誰からも愛される。
すべてが完璧なお兄ちゃんでした。
その兄は、当然運動会のリレー選手。
当日、ちょっと胸が苦しいから
補欠に変わってもらおうとしたら。
補欠の彼も具合が悪い
僕は大丈夫。
ちょっと胸が苦しいくらい、大丈夫。
そうやって、クラスの皆のために全速力で走りました。
そして、心臓勃発を起こし
その場で倒れ、亡くなったのです。
この完璧な兄の生まれ変わり
として育てられた彼女は
完璧でない私は私ではない。
常に完璧であることで生きていられるのだ。
そのように思い込んでしまっていたのです。
だから
それを手放すということは、
生きる許可さえも失う、という事なのです。
それを救ったのは亡き兄の愛でした。
幻になった完璧な兄の姿だけを
追い求めていた母親と、
必死にお母さんの期待に応えようと
頑張り続ける彼女。
その彼女に彼は
真実の姿を突き付けたのです。
愛する妹よ。
こっちへくるな
人の為に生きたらどうなるか分かるか?
お前が死ぬことになるんだぞ。
俺の真似はするな。
もうお前は十分に完璧だ。
お前のままで、お前の為に生きろ。
俺の分までお前がお前を生きてくれ。
そう言って、消えかかっていた
その古いシステムを
この手に押し返してくれました。
彼女の命を守るために
姿をくらまそうとしていた
その古い思い込みシステムは、
「そっちへ行ったら死ぬ!」
という兄の言葉を聞いて慌てて浮上し、
無事にこの手の中で浄化されていきました。
そう、体のシステムはすべて。
あなたを守り、生かすために動いているのです。
あなたが幸せになると。
安全な場所にいけるのだという
確信さえあれば、
喜んで道を空けてくれるのです。
その愛に勝るものはない。
亡き兄の言葉がそこへ繋げてくれました。
お兄ちゃん、ありがとう。
これからは私、お兄ちゃんじゃなくて
私を思いっきり生きるね。
兄と、そして自分自身を守り抜く大きな愛に包まれて
東郷幸枝ちゃんは
プロ養成講座を卒業しました

おめでとう私

ありがとうお兄ちゃん
この勇敢な彼女の人生は
これから先沢山の人に
勇気を与えることでしょう









