⇒前回の話
翌朝8時。
合宿の参加者たちは重い表情で食堂に集まった。
朝食の準備をしていた莉多子が8皿めを用意しかけ、ハッと手を止めた。
何も知らないちか子が、にこやかな笑顔でやってきた。
「みなさん、おはようございます!」
「ちか子さん、実は昨晩、大変なことが起こりまして!」
事情を説明するM田。
「まぁ、貴子さんとハブさんが・・・」
サーッと青ざめるちか子。
「今日も雪がひどいわ。これじゃ、山から下りれない・・・。電話も復旧する見込みがないし・・・」
莉多子は絶望し、頭を覆った。
「雪が止むのを待つしかないわ。とにかく、今は朝食を食べましょう」
翔子はやはり冷静である。
重い空気のまま、朝食がスタート。
みんな黙り込んで、黙々と食べている。
沈黙に耐えかねて、M田が口を開いた。
「莉多子さん、我々に事情を説明してくださいませんか?なぜ、ハブさんはそこまで貴子さんに恨まれていたのでしょうか?」
「そうね。まだ貴子さんが犯人と決まったわけではないけど、皆さんに説明しておかなければならないわ。和歌子さん、いいかしら?」
和歌子がコクリとうなずき、語りはじめた。
「貴子は6年前、交通事故で婚約者を亡くしているんです。それで1年間ふさぎ込んでいたので、新しい恋を始めてみたら?って、マッチングアプリを勧めたんです。そのアプリで出会ったのがハブでした。貴子はハブの見た目がカッコイイからって浮かれていて。私は、そんなチャラそうな男、絶対に遊び目的だからやめなよって警告したんですけどね。でも、久しぶりに貴子がイキイキしていたので、少しでも気分転換になるならって思ったんです。結果的に貴子はハブに会いに行き、その時に財布を盗まれました。婚約者にプレゼントしてもらった、とても大事な財布だったんです。それで、貴子はますます落ち込んでしまって……」
「まあ。和歌子さんはなぜ貴子さんがハブさんに会いに行ったのか、本当の理由を知らないのね……」
莉多子の言葉に、不思議そうな顔をする和歌子。
「えっ、本当の理由って何ですか?」
「きっと和歌子さんを心配させないように事実を打ち明けなかったのね……。貴子さんは、私にすべてを打ち明けてくれたわ。貴子さんの婚約者がなぜ事故にあったのか覚えている?」
「ええ。貴子が街中でバッグをひったくられて、犯人を追いかけようとした婚約者が道に飛び出して車にはねられたんです」
「貴子さんはね、その時のひったくり犯の顔をしっかり覚えていたの。一年後、和歌子さんに勧められたマッチングアプリで、貴子さんは忘れもしないひったくり犯を発見した。その男がハブだったのよ。貴子さんはハブに「イイネ!」を送って、会う約束を取り付けたの」
「えっ、そうだったんですか……。もし、ハブがあの時のひったくり犯だって知っていたら、私は全力で阻止していたわ」
「でしょうね。だから、貴子さんは和歌子さんには真実を打ち明けなかったのよ。貴子さんは謝罪してほしくて、ハブと会う約束をした。しかし、ハブは一年前のひったくり事件についてシラを切りとおした挙句、貴子さんのカバンから財布を抜き取った。その財布は、貴子さんの婚約者が亡くなった日に買ってくれた、とても大切な宝物だった」
「ええ。貴子はバッグは盗られたけど、紙袋に入っていた財布が無事だったのは不幸中の幸いだと言っていたわ」
「ただ、わからないのが、貴子さんはそんなに大事にしている財布をなぜ、ハブに会う時に持っていったのかしら」
目を閉じ、何かをジッと考える和歌子。
「もしかすると貴子は財布を亡き婚約者の分身だと思っていて、ハブが謝罪する姿を見せたかったのかもしれない……」
「なるほど、そうかもしれないわね」
「警察には通報しなかったのですか?」
加山が和歌子に尋ねた。
「ひったくり被害に遭った時に被害届を出したけど、結局犯人は見つからなかったの。財布を盗まれた時も警察に相談したけど、ハブが盗んだという決定的な証拠がなくてダメだったの……」
さらに、莉多子が続ける。
「貴子さんはハブのことがどうしても許せず、謝罪を求めていた。でも、ハブからLINEをブロックされていて、連絡を取ることができなかった。その後、貴子さんは地道にハブに関する情報を集めていて、私のブログにたどり着いたの。ブログに書かれている男の特徴を読んで、すぐにハブのことだとわかった。それで、ハブと再会する場を作ってほしいと相談されていたのよ」
「莉多子さんも、2年前にハブに財布のお金を盗られていますよね。当時の莉多子さんのブログには、ハブに対する恨みつらみが書き綴られています」
「そうなの、カモさん。だから私、つい貴子さんに感情移入してしまって……。私もハブにお金を盗られたけど、警察に言わずに泣き寝入りしてしまった。だから、あの時の悔しさが蘇ってきて、貴子さんと一緒にハブを警察に突き出したかった。でも、まさかこんなことになるなんて……」
「とにかく、犯人は貴子さんかハブのいずれかで、犯行後に犯人が自殺した線で間違いなさそうですな」
腕時計をいじりながら、加山が断言する。
手元には、黄金のロレックスが光り輝いていた。
いつの間に取り返したんだ……。
私のサングラスはまだ見つかっていない。
警察がやってきたら、証拠品として持っていかれるかもしれない。
その前に、私も取り戻さないと!
M田は焦った。
「とにかく、雪が止むまではここから一歩も出られないわ。申し訳ないけど、今日の予定はすべて中止です。みなさん、今日は各自お部屋で静かに過ごしてね。12時の昼食の時間に、またここに集合しましょう。あと、事件のあったハブの部屋には絶対に立ち入らないでね」
「わかりました」
「では、解散!」
一斉に席を立つ参加者たち。
部屋に向かって歩いていた和歌子の肩をポンと誰かが叩いた。
振り返ると、クス男だった。
「大丈夫?あんま落ち込むなよ」
「うん、ありがと」
「一人で心細くない?俺の部屋に来る?」
「ううん、大丈夫」
「そっか、じゃ、またあとで」
「うん、またね」
M田は周囲をキョロキョロと見渡していた。
よし、誰もいない。
莉多子さんからは、ハブの部屋に入ってはいけないと言われているけど、
中にきっと私のサングラスがあるはずだ。
取り戻すなら、今しかない!
その時、人影が現れ、とっさに身を隠すM田。
そっと物陰から様子をうかがうと、クス男がハブの部屋に入っていくのが見えた。
えっ、クス男がなぜハブの部屋に!?

