一時代を築き、一世を風靡した味にはそれなりの理由がある。たとえその店がなくなったとしても、食べた人々の中で記憶として生き続ける。本来なかなか表には出てこない、また出てきたとしてもネットの中などで雲散霧消してしまうような事柄を、体系づけて記録として残しておきたいというのが本書の立ち位置となっている。
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ラーメン本には色々なスタイルがある。新店を紹介するラーメン本が多い一方、名店を掘り下げて取材するタイプもある。この本は後者だが、その中でも更に特徴がある。一般的には「鶏ガラあっさり醤油」だと思われる「東京ラーメン」だが、実際には豚骨を使っている東京のラーメン店も多い。本書ではそういったラーメン店にも注目し、「系譜」という言葉でまとめている。ウェブサイト「メシ通」の連載を中心に、新規取材を加えて書籍化している。
「ホープ軒本舗」に代表される戦前の屋台からの店、「代々木上原大勝軒」など町中華やつけ麺に関わる店。「珍来」など、チェーン店として展開してきた店、「弁慶」など、ホープ軒屋台にルーツを持つ店、「御天」など、とんこつブーム以降の人気店、17軒へのインタビューをメインに、コラム7本を加えている。
他のラーメン本と違い、「食べた事がある」「名前を聞いた事がある」という店に関する再確認、再発見の情報が多く、幅広い層に親しんでもらえる一冊になっている。中でも「つけ麺大王」など、一世を風靡した店にも丁寧な光を当てていて、今まであまり見る事がなかったラーメンの歴史についても学ぶことができる。「どさん子」や「ラーメンショップ」では、創業者の側ではなく、フランチャイズに加盟した側からの最盛期の姿が紹介されているのも特徴的。
また、「ラーメン二郎堀切店」から「ラーメン大」になった清水店主や、「イレブンフーズ」の二代目にも話を聞くなど、これまでのインタビュー企画にはなかった貴重な話が聞けている。著者である刈部山本氏が原体験とする豚骨醤油ラーメンをはじめ、幅広いジャンルへの取材が、この一冊の個性になっている。
冒頭の引用部は「あとがき」に書かれたこの本の立ち位置。ネットの中では残りづらい(検索結果ですら出てきづらい)記録を、しっかりと紙幅に残している。刈部さんのバイタリティーに敬意を表する一方で、こういった視点を出せなかった自分への喝を込めて、本稿を締める事としたい。

