評論家の堺屋太一氏は、八十年代をみとおして、
「人間も商品もナショナル(全国的)ヒーローの時代から、アワー(私たちの)ヒーローの時代に入る!」
と言い切っている。つまり、ラーメンも全国制覇をとげ得意になっている産業より、小粒ながら個性を発揮している地方ラーメン(?)の時代がくるというわけだ。
(p208)

 

 「懐かしのラーメン本」を取り上げるなら、「日本ラーメンファンクラブ」名誉会長に就任していただいた、我らが林家木久扇師匠を忘れてはいけないでしょう。「笑点」では「おバカキャラ」をあえて演じている師匠ですが、実は著書多数。落語に限らず、昭和の東京についてまとめたり、錦絵をはさんだエッセイをまとめたりとジャンルも多彩。

 

 ラーメン本としては、1981年に「なるほど・ザ・ラーメン」を著していてますが、味の素「食と文化のライブラリー」の蔵書にあった、こちらの本をレビューします。

 長崎と横浜といった「港」からの日本ラーメン事始め、北海道や九州のラーメンを紹介。全国のうまいラーメン店ガイドでは、秋田・富山・香川といった、情報が少ない県からも、少ないながらも紹介している。


 また、「なるほど・ザ・ラーメン」の1ページで募集した事をきっかけに始まった「全国ラーメン党」の4年間の活動についてまとめられているのも興味深い。テレビやラジオ番組、ラーメンイベントへの協力などを様々に行っていた。その活動の中には、貧困に苦しむアフリカをラーメンで救おうという募金活動や、ラーメンの母なる国、中国との友好を活動テーマに掲げている。本書でも中国訪問紀行や、中国から帰国した残留孤児の就職支援なども決めていたという。1979年に帰国した人が1983年に蒲田で創業した餃子店「ニーハオ」もラーメン店ガイドの中に掲載しているが、当時のオススメは「水餃子」で、まだ羽根つき餃子は提供していなかったのかもしれない。


 「スターのラーメン観」のコーナーは、恐らく「全国ラーメン党」の会報誌インタビューの再録らしい。党副会長の横山やすしをはじめ、タモリ、ビートたけしといったお笑い界、渥美清、鳳蘭、浦辺粂子といった俳優陣、田中角栄、山口淑子(李香蘭)といった政治家も登場。皆さん結構本音で書いていて「ラーメンあまり食べてないですよ」という人も多い。薬師丸ひろ子が「女の子一人だけじゃ入れない雰囲気ですからね。ドンブリかかえて、ラーメンのスープ飲み込んでるギャルなんて、ナウくないですもの」と語っているのは、やはり時代だなぁ、と。


 終章の「2001年ラーメンの旅」は、未来へのラーメンの提言。中には荒唐無稽なものもありつつも、未来のラーメンについて5つのテーマを掲げている。「腹減食」とはは少食化で、「抗塩食」とあわせて健康志向を掲げている。これは今の糖質オフに対応したラーメンの動きにも共通している。そして、点心やタコスをモチーフにした「包心食」や、お菓子のような「スナック化」も掲げている。近年のまぜそばブームを考えると、スナック化もあながち外してはいない気がする。


 最後に掲げた「個性化」は、冒頭の、堺屋太一氏の言を引いた一文が光る。ナショナルヒーローといえば、昔は「巨人・大鵬・卵焼き」などと言われたものだが、プロ野球の巨人への一極集中人気は廃れ、野球やサッカーなど、各地の様々なスポーツチームにサポーターがつく時代になっている。この本が出版された1985年は喜多方ラーメンブームが話題になった少し後で、「ご当地ラーメン」という言葉がまだなかった。各地のご当地ラーメンが知られる事で、2001年頃のラーメンブームは更に加速していったと思うが、一方で、豚骨魚介つけ麺や二郎インスパイアなどが全国を席巻するような動きもみられる。ラーメンの個性化は保たれ続けるのか否か。その答えはまだまだ先になりそうです。