芥川賞候補作ラスト!
小砂川チト『家庭用安心坑夫』を読みました。
ほかの候補作と違って
この作品はどう読んだら良いか
一瞬、頭を抱えました。
ストーリーはつながっているようで
飛んでいる箇所があったり
何度か読み返さないと事態が飲み込めなかったり。
読むのに苦労した作品ですが
物語を通して「新たな世界の扉をひらく」のが
文学の醍醐味なので
純文学らしいといえばらしい作品でした。
この物語の主人公は
専業主婦の小波(サナミ)。
秋田にある実家を出て
夫と二人暮らしをしていますが
自律神経の調子が狂い
小波の心は常に不安が押し寄せる
ようになりました。
自分は働いていないのだから
ちゃんと家のことをしなければ・・
身だしなみをきちんとして
ちゃんとした生活を送らなければ・・
という強迫観念と
街を歩けばいろんな人の視線が気になり
なるべく気配を消していたい気持ちで
いっぱいになり、
安心できるひとときがありません。
家にいてもリモートワーク中の
夫に気を遣い、
なるべく気配を消して生活しており
常に神経を張って過ごすのですが
ある日、日本橋三越で
お買い物代行の仕事をしていたときに
長らく会っていない「父親」の痕跡を見つけ、
小波は震え上がってしまいます・・
それは三越の柱に
幼少期の自分がラクガキした
けろけろけろっぴのシールが
貼り付けてあるのを見つけたから。
秋田にいるはずの「父親」による
自分にしかわからない痕跡は
小波の過去の記憶の扉を開け、
過去の記憶と妄想と不安が入り混じる
展開を迎えるのです。
この「父親」というのが
またくせもので、
秋田県の史跡・尾去沢鉱山(おさりざわこうざん)
の中にいるマネキン人形のひとりなのです。
小波の母は
“本当の父親”と
結婚せずに小波を生み、
父親の話になると母は
冗談なのか本気なのか
尾去沢鉱山の人形、
通称「尾去沢ツトム」の
ことを父親だと言い聞かせていました。
ツトムはいまだに
尾去沢鉱山の中にいるはずなのに
三越のシールがきっかけで
その後も何度もツトムを見かけるようになり
小波はこの謎の現象には
秋田へ戻らなければならないという
メッセージなのではないかと
感じるようになり、
夫の反対を押し切って
秋田へ向かうのです。
この物語は小波の描写だけでなく
随所で別の人物の視点にうつります。
それは尾去沢鉱山の
尾去沢ツトム。
鉱山内の事故で
20代の若さで亡くなった
ツトムの鉱山での生活が語られます。
それは小波の想像なのか
明言はされませんが
ツトムの心情と小波の心情が
リンクする箇所があり
小波の頭の中の物語であるように
読み取れます。
秋田へ戻った小波は
ツトムと再会を果たしますが
小波の不安は消えず、
むしろどんどん増幅して
小波は思いもよらない行動に出るのです。
不安と疑念が
どんどん押し寄せてきて
それを取り払おうと必死になって
小波は行動するのですが、
はたから見たらその行動は支離滅裂な
おかしな行動にしか見えず
小波が必死に動けば動くほど
はたからはマヌケな姿に見える・・
という展開があって
そこはシュールでニヤついたのですが
他の場面では
小波の繊細さ、もろさの背景にある
崩壊した家庭環境を想像して
胸が痛みました。
小波の強迫観念や不安は
どうして植え付けられたのか・・
明示はされませんが
少しだけ語られる家庭環境の複雑さに
よるものだと読み取ることができます。
安心できるはずの家の中でも
神経をはりつめて過ごしてきた小波にとって
唯一の逃げ場は「頭の中」
だったのかもしれません。
この物語は
現実と想像の世界を行ったり来たりしながら
安住の地を求めてさまよう
物語なのだと思いました。
現実のなかに芽生えた不安が
どんどん膨らみ、想像の世界を
巻き込んで現実世界を呑み込む
物語展開は圧巻でした。
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