山田詠美さん、西加奈子さんに続いて
何度も読みたくなるマイベスト作家さん、山本文緒さん。
昨年の訃報にはとても驚きました・・
『自転しながら公転する』が最後の「新作」に。
新作を心待ちにしていたのですが、
たとえ現代作家さんでも
「新作が出る」と当たり前のように
思ってはいけないのだと痛感しました・・
これからは山本さんが残された渾身の作品たちを
大事に読み返していきます。
ということでひさびさに
『アカペラ』が読みたくなり、再読しました。
『アカペラ』には、表題作の他
「ソリチュード」「ネロリ」の2編の
中編小説が収録されています。
連作小説というわけではないのですが
3編ともに家族との折り合いの悪さと
現実のままならなさが描かれています。
「アカペラ」の主人公は
中学3年生のタマコ。
身勝手な理由で家を空ける
放任主義の親のもとに育ちましたが
親や学校に隠れてバイトできるし
大好きな祖父と二人で過ごせるしと
本人は前向きに過ごしています。
ですが進路の時期になり、
担任教師にタマコのバイトがばれ、
その後も次々と問題が出てきます・・
耐えきれずタマコは祖父と“駆け落ち”するのですが
だんだんと祖父の様子がおかしくなって・・
「ソリチュード」の主人公は
18歳で家から逃げ出し、父親の死をきっかけに
20年ぶりに実家に帰ってきた一人息子・春一。
家を出たきっかけは
幼馴染でありいとこの美緒との恋愛関係を
双方の親から反対されたためでした。
20年ぶりに戻ると
美緒には12歳になる娘がいて、
春一は逃げ出した過去に胸が痛み、
しかしどうすることもできないまま
ふらふらと実家で過ごすのですが・・
「ネロリ」の主人公は
病気で働けない弟を献身的に支え続ける
姉・志保子。
中堅出版社の社長秘書として
長年勤め続けましたが
社長の引退とともに依願退職を頼まれ、
もうすぐ50歳になる志保子は
自分と弟の将来を案じて
途方に暮れてしまいます・・
いずれも家庭に複雑な事情を抱え、
乗り越えようとしますが
その事情が重荷になってのしかかり
気持ちが沈んでしまう人々の姿が描かれています。
血のつながった家族との事情ゆえに
簡単に逃げることもできず、
現実にがんじがらめになる様子が
克明に描かれていて胸が苦しくなりました・・
けれど、この3編には
主人公たちの心の支えになる
家族も登場しています。
「アカペラ」にはタマコの祖父、
「ソリチュード」には春一の母といとこの美緒、
「ネロリ」には志保子の弟の存在が
彼らの心の支えとなり、
厳しい現実に立ち向かう彼らを癒し、
前を向くエネルギーをくれるのです。
家族が重荷になっているのに
心の支えにもなっている、
矛盾しているようでなぜか成り立つのは
人間の感情のせいなのでしょうか・・。
そんな相反する感情に揺れながらも
主人公たちが本音を見せる場面があって、
「あぁ、わたしはこうしたかったんだ」
という思いに気づいたときの切なさが
さらに胸を締め付けました・・。
(気づいたときには叶わないものになっているから・・)
この物語たちは明るい物語ではないですが
お先真っ暗な物語でもありません。
家族が重荷になっていること、
そして心の支えにもなっていることを
厳しい現実を通してしっかりと受け止め、
自分の本音にも気づきながらけじめをつけ、
結果はどうあれ、少しずつ前に向かおうとする
とても誠実な物語なのです。
どんな人でも苦労はあるし、
困難を前にしてぐらぐらと迷い、
本音と「正しさ」に揺れながら
生きるのが人間の正しい姿だと思います。
『アカペラ』は
人間の正しい姿が正しく描かれていて、
浮き沈み、いろんな気持ちにさせられますが
この感情の揺れ動きこそが人生なのだと
しみじみ思わされました。
子の親になり、
いずれ親子関係がうまくいかないときが
くるのだろうか・・
なんて想像したくありませんが、
この先うまくいかないことがあったとき
『アカペラ』の主人公たちの
困難への向き合い方を思い出したいと思いました。
あと、個人的に希望だなと思ったのが
3編の主人公たちがいずれも
「かけがえのない大切なひと」が
揺るぎなかったことです。
(MONGOL800みたいな言い方しちゃった笑)
(いや、ロードオブメジャーだ笑)
(わかる人にはわかる)
その強い思いが消えてしまうと
きっととても人生つらくなってしまうから。
彼らの強い思いに触れて
心がほっと温かくなりました。
現実に追われてしんどいとき
この物語が
「かけがえのないもの」を思い出す
きっかけにもなりそうです。
何度読んでも胸に染みる名作です。
ぜひ読んでみてください。
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