直木賞候補作の長浦京『アンダードッグス』(角川書店)を読みました。


昨日は一日中この作品と戦っていました。


書かれたものを読んで受け止める立場のいち読者として「戦う」という言葉を使うのは不思議ですが、でも、「戦う」という表現がまさにふさわしい作品だと感じました。


何と戦ったのか?というと、この物語の仕掛けに。
この物語には落とし穴のような仕掛けがたくさん張り巡らされていて、落ちないように、と思いながらもどうしても落っこちてしまうのです。


落っこちて呆然としながらも、すぐに切り替えて次の物語展開に喰らい付いていけるように「戦い」ながら読み進めていました。


趣味で読書ブログを立ち上げ、年間150冊読むようになると、「次はこんな物語展開になるのでは?」とついつい予想する頭のクセができてしまいます。


たまに当たることもあるのですが、この物語は自分の発想では全く追いつきませんでした。


予想をことごとく裏切られ、次の展開が全く読めない緊張感を覚えつつも、気になってページをめくる手が止まらない。


物語冒頭から落とし穴に落とされまくっているのに、登場人物もわたしの頭もボロボロなのに、ずっとワクワクしながら夢中で読み進めていました。


読み終わった瞬間は、解放感と安堵感と達成感で胸いっぱい。物語世界にどっぷり浸かった反動で、寂しさすらも感じてしまいました。


これぞエンタメだ、と深くうなずかせる傑作長編ミステリーでした。


……本作を読んだ感動が先立って、あらすじより先に熱い思いを綴ってしまいました。
このブログを読んだ方には「何も知らない状態でまず読んでほしい!!」とお伝えしたいところですが、簡単にあらすじを紹介します。


この物語の舞台は1996年から1997年をまたぐ香港。
1997年7月に香港の主権がイギリスから中国へと渡る「香港返還」が行われる直前に、ある男の企てに乗せられた「アンダードッグス(負け犬)」たちが奮闘する物語です。


元農水省官僚で証券会社のトレーダーを勤める古葉は、大得意先のイタリア人富豪に突如呼び出され、とんでもない計画を託されます。


それは7月の香港返還を控えて、春節(2月7日)に香港の大手銀行から海外へ移送される世界の要人たちの不適切な投資記録が残されたフロッピーと書類を奪い取ってほしい、というもの。


なぜ自分が、と古葉は唖然としますが、イタリア人富豪は古葉の全てを調べ上げ、彼が農水省時代に裏金作りに巻き込まれて全てを失った過去があることを知った上で彼を適任者だと見込み、計画を伝えたのだと言います。


何の後ろ盾もない非力な自分には到底つとまらないと言う古葉に、イタリア人富豪はこう答えます。


「弱いものだからこそ、死に物狂いで知恵を出し、時には途方もない力を見せる。考えてみてくれ。君はある意味で私と似ている。高い先見性と計画性、決断力を持ち、しかも復讐心に裏打ちされた強い動機も兼ね備えている。ぼんやり今を生きているようで、自分を陥れた政治家や官僚に対する怒りも憤りも完全には消えていない。君は確かに一度失敗した。でも、その失敗は、君をより強く慎重に、そして狡猾にしているはずだよ」(21頁)


古葉はなかば強制的に胸の奥底に眠る感情に火をつけられ、途方もなく壮大で危険な計画に乗ることになるのです。


香港へ到着してからは、冒頭に述べたように裏切りの嵐が古葉とわたしたち読者を振り回します。


大富豪から伝えられたチームメンバーと合流し、古葉の警護役をつけ、奪取作戦を彼らと練ろうとする間にも古葉の行く手をはばむ刺客が次々とあらわれ、命の危機を何度もくぐります。


いちばん最初の“裏切り”は、香港到着後に古葉とミーティングをするはずだった依頼主のイタリア人富豪が何者かに殺されてしまうこと。


依頼主であり案内役をはじめから失ってしまった古葉は、同時に命を狙われる存在になったことも察知し、必死に逃げながら生き延びようとするのです……。


この後もたくさんの裏切りが待ち受けているのですが、わたしたち読者にとっていちばんの裏切り者となるのは、中心人物の古葉。


各国の思惑に板挟みになりながら、古葉は非力な負け犬だからこそできる戦い方を選び、読者をも裏切りながら突き進んでいくのです。


本書が刊行されたのは2020年8月。
2020年7月1日、23年間維持されてきた香港の「1国2制度」体制が崩れるきっかけとなる「香港国家安全維持法」が成立し、中国支配が強まった香港の今後の情勢が注目される絶妙なタイミングでこの物語は生まれました。


そんなタイミングでこの物語を読むと、香港という街にひそむパワーを感じないではいられません。
各国の思惑が蠢き、振り回され続けている香港という街が「アンダードッグス」を通じて逆襲の叫びを上げているように思えてきたのです。


物語展開に裏切られすぎて、緊張と驚きの連続で心が持たないかと思いましたが……笑、「裏切られる」ことがこんなにも気持ち良いのか、と読み終わって心から思いました。


負け犬はかっこ悪くてみじめな存在なのか?
いや違う。負けることは勝つことでもある。
そうわたしはこの物語を読んで断言できます。
この物語は「アンダードッグス(負け犬)」という言葉のイメージすらも裏切ってくるのです。


傑作です。
それ以外の言葉はありません。
このブログを読んだ方はぜひ手に取ってほしい逸品です。


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