池澤夏樹『スティル・ライフ』(中公文庫)を読みました。


12月もはや10日が過ぎました。
そろそろ芥川賞・直木賞の候補作が出てくるころなので、純文学作品に触れて「予想力」を少しでも鍛えようと思います(果たしてどうなる・・!笑)。


池澤夏樹『スティル・ライフ』は表題作ともう一編が収録された短編集。
表題作が第98回芥川賞を受賞しています。


「スティル・ライフ」は染色工場のアルバイトをしていた「ぼく」が、同僚の佐々井からある頼まれごとをされ、数週間の同居生活をする物語です。


この物語は、あらすじはそれほど重要ではありません。
「ぼく」が佐々井と出会い、化学反応を起こすように「ぼく」の思想と佐々井の思想がぶつかり、溶け込んでいく様子がフォーカスされて描かれていると感じました。


「ぼく」と佐々井の共通点は、どちらも地盤を固めていないことです。
アルバイトを転々とし、ふらふらと迷いながら生きている「ぼく」は、佐々井のなかにも同じものを感じて意気投合します。


彼らはただのらくらしたくてアルバイト生活を続けているのではなく、静かな生き方を好んでいます。


雪の日に、しんしんと降る雪をボーっと眺めているうちに、自分の存在が自然と一体化してしまうような……そんな「静物」的な境地に入ることを好み、そんなエピソードを話す「ぼく」を佐々井は気に入るのです。


しかし佐々井にはある重大な秘密があり、その秘密のために「ぼく」にある頼みごとをします。
それは静かな生き方とは正反対の、動的で、とても現実的な活動です。
「ぼく」は佐々井の秘密に驚きながらも、彼の頼みごとを快く受け入れ、彼と数週間ともに暮らします。


静物的な境地と現実的な活動が行き来しながら物語は進んでゆくのですが、活動が終わり佐々井が「ぼく」のもとから去っていった後、「ぼく」は佐々井から新たな世界の見方を教えてもらったことに気がつくのです。


自然と、世界と、調和をはかりながら生きていく、という感覚は、日々現実と向き合っていると意識にのぼってくることはほぼありません。
旅先で雄大な自然に触れたときにそうした心持ちを感じることはあっても、どうしても非日常的にしか感じ取れないものだと思っていました。


内省的でありながら外向きで、現実的でありながら超越的で。
「スティル・ライフ」はそんな両極端な感覚を日常に持ち込もうとした実験的な作品だと感じました。


『スティル・ライフ』に収録されているもうひとつの短編「ヤー・チャイカ」も同じように内省/外向き、現実/超越を両立させようとした小説だと感じました。


この物語はシングルファザーの鷹野が日本語の流暢なロシア人と出会い、交流を深めていくというあらすじですが、こちらもあらすじはあまり重要に感じず、彼らが出会ったことで起こる心の反応がフォーカスされて描かれていると感じました。


ロシア人との交流は、鷹野の娘・カンナも含めて家族ぐるみの付き合いになっていきます。
そしてある時ロシア人から「スパイとして活動するのはどうか」という突拍子もない提案をされて鷹野は戸惑うのですが、現実的なリスクを考えると同時に、スパイとして活動する自分を想像せずにいられません……。


「ヤー・チャイカ」には、鷹野の「ありえたかもしれない未来」とカンナの空想が交互に描かれます。


どちらも現実的ではないという点で共通していることですが、そうした空想と現実を行き来させながら人はものを考え、その場での賢明な判断をしようとするのかもしれない、と思いました。


空想好きな子どもだったわたしは、こうした空想と現実が行き来する感覚に身に覚えがあり、どこか懐かしい気持ちで読み進めた物語でした。


現実的で、空想家で、内省的で、外向的で。
人間はそういう矛盾したような極端な性質をあわせもちながら生きているということを強く実感した作品でした。


こういう領域は文学だからこそ描けるものだと思います。現実的ではないのに、頭にはイメージがはっきり浮かぶという不思議な体験ができるのは文学の世界だけです。


そういう文学のおもしろさを開拓しているのが純文学、芥川賞作品だと思います。
そう思うと次の候補作を読むのが楽しみになってきました。


候補作が出るまで、池澤夏樹さんのほかの作品もチェックしたいと思います。


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