彩瀬まる『眠れない夜は体を脱いで』(中公文庫)を読みました。
本書は自分の個性と外側から言われるイメージとのギャップに息苦しさを感じる人々が描かれた5編の短編集。
これまで何度もブログには書いてきていますが、わたし自身
「女の子なんだから」
というイメージの押し付けがとっても苦手です。
性差にかぎらず、見た目でいろいろ決めつけられたりすることも。
「ほんわかした見た目のわりには、けっこう勝気だよね」的な。
そう思うのはわかるけど、そう言われてもなぁ、、なんて返したものか困っちゃいます^^;
ちなみにこれは自分が「言われやすい」「話しやすい」見た目や雰囲気であるというのも原因のひとつにあると自覚しています。
いろいろ言われたくないからといってギンギンに隙の無いオーラを放つのも自分の性格的に違うと思っていて、見た目で判断しちゃうのはまぁ仕方ないよなぁと思いつつ、自分なりにうまくスルーする方法を見つけるのがこれからの課題のひとつになっています。
自分の話が長くなりましたが、この物語でもイメージの押し付けが各所に散りばめられています。
イケメンなんだから、苦労なんてしないだろう。
50過ぎていきなり合気道をはじめるなんて。
適齢期なのに、婚活せず趣味に没頭してばかりでいいの?
作中には上記のような声がかけられ、その声に反発しつつも自分に自信が持ちきれず、悩んでしまう登場人物たちの姿が描かれています。
「小鳥の爪先」の和海は、顔の整ったイケメンだと周りからもてはやされますが、彼女との距離感に悩み、素の自分を出せないでいて、
「あざが薄れるころ」の真知子は合気道を通して男女の体力差に圧倒され、男性として生まれていたら合気道を含めていろいろ悩まなかったのかもしれない…と思い始め、
「マリアを愛する」の香葉子は、事故で亡くなってしまった彼氏の元カノの面影に悩まされますが、なんとその元カノが香葉子に取り憑き「本当の自分」ということについて考えさせられ、
「鮮やかな熱病」の本藤は真面目な銀行員として既存の価値観に疑問を持たずに生きてきましたが、50を過ぎて明らかに自分とは違う価値観の部下や同僚があらわれはじめて戸惑いを隠せず、
「真夜中のストーリー」の幸鷹は男らしい体格を持ちながらも「男らしさ」というイメージに反発したい気持ちもあり、ネットゲームでは女性アバターを操作して遊ぶことで心のバランスを取ろうとします。
彼らの立場はまったく違うけれど、自分の思うことと他者が思うことのギャップに戸惑う様が鮮明に描かれ、これは社会で生きていく以上、誰しもが抱えうるものなのだということを改めて感じました。
彼らはときには勇気を出して自分の個性を出してみたり、ときには頑なな自分を認めて新たな感性を受け入れてみたりしながら、自分の「壁」を乗り越えていきます。
彼らが壁を乗り越えていく様に心打たれ、そして乗り越えた先の心情描写がとてもまぶしく、きらめいて感じました。
そして本書には、各編の登場人物たちをささやかにつなぐ仕掛けがほどこされています。
それはインターネットの掲示板。
物語内で彼らはふとした拍子にネット掲示板に迷い込み、そしてひとつのスレッドを発見します。
受け止められ方はさまざまでしたが、この掲示板は彼らが「世の中にはいろんな人がいるのだ」と想像しながらしみじみと思いを馳せる、ひとつの転換点として描かれているのです。
彼らが壁を乗り越えていく途中に「いろんな他者を想像する」という行為をいったんはさんでいるところに、この物語の大切なポイントがあると感じました。
いろんな人がいることを想像し、思いやることによって、自分がとらわれていたイメージから距離を置くことができ、自分が思い込んでいた「役割」を手放すことができるからです。
性差や見た目や体格など、生まれ持ったものからイメージを見出すのはとても簡単なことです。
けれど、そのイメージにとらわれて窮屈な思いをしている人や素の自分を出せない人もいる。
この物語はそうした他者を思いやることによって、とても優しい世界が作られていくことを明示している作品だと感じました。
イメージの壁を乗り越え、本当の自分を出せた登場人物たちの輝かしい顔が印象深く残ります。
素の自分を受け入れてくれる人がいるということがどれだけ幸福なことかを、強く噛み締めさせられました。
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