山本文緒さんの作品はこれまでもいくつか読んでいて、ひさびさの新刊に嬉しくてこんな浮かれたツイートをしてしまいました。笑
本の帯によると7年ぶりとのこと。
待ってました……!!
図々しく引用リツイートしちゃったんですが汗、著者の山本さんは優しく返信してくださいました…ありがとうございます!!
さてさっそく本書のあらすじです。
物語の舞台は茨城県のとある街。
高層タワーよりも高くて大きな大仏がシンボルとしてそびえる街のアウトレットモールで働く男女の物語です。
主人公はアウトレットモールのアパレル店員をしている33歳の都。
20代の頃は東京で働いていたものの、母親の体調が優れず介護が必要になったことがきっかけで茨城の実家に戻ってきたのでした。
母親の不調は更年期障害からくるもの。
不安定な時期が長引き、父親が基本的に面倒をみるものの、病院の送り迎えや経済的な負担が多く、一人娘の都に助け船が出されたのです。
平日は仕事、休日は母親の病院の付き添いと気の抜けない日々が続く生活に加えて、ずっと元気でいるものだと思い込んでいた家族の不調にショックが大きく、都はこれからの自分の人生がどうなっていくのか、漠然とした不安を抱えながら日々を過ごしていました。
アパレル店員の仕事はパート勤務ですが、経験者のため店長や社員から重宝がられています。
しかし、重宝がられるゆえに自分の立場以上の仕事を頼まれることがあり、波風を立てたくない都は断りきれず、職場の距離感にもしばしば悩まされるのでした。
平日も休日もモヤモヤとした思いを抱えるなか、台風の日に都はある不運がきっかけでひとりの男と出会います。
その男は回転寿司屋の店員で、以前都が態度が悪いと叱責した男でした。
そうした経緯もあり、THE・ヤンキーという見た目もあり都は身構えますが、無愛想だけれども都に親切にしてくれ、そこから都は回転寿司屋の店員・貫一としばしば会うようになるのでした。
都は貫一との出会いから気持ちが上向きになりますが、仕事の不安定さも母親の不調も変わらず、都は鬱々とした現実から逃れるように貫一と付き合うようになります。
貫一は見た目はヤンキーだけれど優しく、本好きという意外な一面もあり、都は貫一を興味深く思いますが、彼とこのまま人生を進めてゆくのか、ということは思い至らず、そして貫一も将来を考えていないように思え、その先をあまり考えないように過ごしながら交際を続けるのでした。
このままずっと茨城のアウトレットモールで働き続けるのか。
両親に気を遣いながら実家で暮らし続けるのか。
貫一と結婚するのか、したいのか。
33歳という年齢もあり、友人や知人がどんどんライフステージを変えていっているなか、膠着状態の都のまわりにのしかかるたくさんの不安と重圧は、都をだんだんと苦しめ、そして少しずつ都は追い詰められてしまいます……。
都の真面目さ、誠実さ、現実に向き合おうとしない弱さ、優しさからくる不器用さに心から共感し、どうか幸せになってほしい……!と強く祈りながら読み終えました。
不運というものは重なるもので(本当にそうですよね)、恋愛で上手くいかなくて不安定な時に仕事でもミスをしたり、親から「甘えすぎだ」と叱られたりしている姿が気の毒でなりませんでしたが、場面が変わり親の視点でもシーンが鮮明に描かれていくため、「誰だって必死に生きているんだ」と思い、胸がギュッと締め付けられました……。
この物語のいちばんの魅力は、心の浮き沈みの描写の巧みさだと感じました。
山本文緒さんご自身も経験されているからか、都や都の母親の心が沈み込むときの情景描写と反転して心が軽くなったときの開けた描写がとても鮮明に描かれています。
心を病んでしまった人はこんな風に世界が見えているのか……と勉強になりましたし、都がいくつもの重圧をひとりで抱え込んで追い詰められてゆく場面が本当に人ごととは思えず、自分を投影してのめり込むように読みました。
将来を不安に思い決めきれないでいる都に追い討ちをかけるように、旧態依然とした考えを持つ田舎の父や本社のセクハラ野郎が台風のように都を襲い、消耗する姿にも胸が痛みました。
30代という年齢に焦り、消耗し、余裕と自信をなくしてゆく姿が読んでて本当に辛かったですが(まるで自分の姿を見ているようで)、少しずつ自分なりに前進していこうとする物語展開に心打たれました。
「別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ」(477頁)
「ちょっとの不幸が許せなくなる」という言葉にハッとさせられました。
心の寛容さが足りないから、不安を抱え、余裕をなくし、消耗してしまうんですよね。
幸せを必死で求めるよりも、不幸を前にして苦労しながら、自分の心を成長させてゆく方がこの先の人生にとって強い支えになり、希望や救いになってゆくのではないか。
そんな風に考えると、人生は少し不幸なぐらいが実はちょうど良いのではないか……とも思い、結末部のこの台詞がさらに染みて、うるっときてしまいました。
山本文緒さんの新作は、いくつもの負担・重圧を抱えて生き抜く人の肩の力をゆるませ、希望ある未来に向かってそっと背中を押してくれる傑作長編でした。
わたしも、もっともっと成長したい。
読み終わって強くそう思いました。
素晴らしい一冊でした。
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