山内マリコ『あのこは貴族』(集英社文庫)
東京に住む“いち庶民”として、とてもおもしろく読み終えました。
どうして“庶民”を強調したかというと、この物語には東京に根を張る“貴族”の輝かしい暮らしが描かれているからです。
この物語の主人公は、榛原華子と時岡美紀というふたりの女性。
華子の実家は渋谷区松濤にあり、父親が開業医、年始には帝国ホテルで家族顔を合わせてお年賀の会を開く、まごうことなき“お嬢様”。
裕福な家柄に加えて、三姉妹の末っ子として可愛がられ、甘やかされて暮らしてきた華子は、自分の人生がベルトコンベア式に進みゆくことになんの疑問も抱かず、ラグジュアリーでありながらもある意味で変化のない暮らしに満足していたのでした。
しかし、そんな華子にとって人生初とも言える悩みが訪れます。
それは結婚相手に恵まれないこと。
交際経験はあるものの、付き合ってしまうとすぐに相手が冷めてしまい続かず、26歳の華子は焦りを隠せなくなってくるのでした。
華子は豊かな暮らしが染みついたあまりに結婚もスムーズにいくものだと思い込んでいたところがあり、婚活がうまくいかないことに自分のプライドがどんどん傷ついていくことを自覚するのですが、紆余曲折ありながらも華子は理想の結婚相手に出会います。
相手は青木幸一郎という、華子の義兄に紹介された弁護士で、慶應幼稚舎出身の超エリート。
実家は華子の家よりも格段に大きく、華子は圧倒されますがこれ以上の理想の相手はいないと思い、彼との婚約を進めるのです……。
一方の時岡美紀は、地方から上京してきた苦労人。
過酷な受験戦争を勝ち抜き慶應義塾大学に進学したものの、“内部生”たちとのギャップに劣等感を抱き続ける大学生活を送ります。
“内部生”とは、慶應義塾大学附属の中学・高校からエスカレーター式に進学してきた人たちのこと。
すでにキャンパスに馴染み、垢抜けた容姿で高級ブランドを身にまとう彼らの姿は、美紀の目にはキラキラと輝いて見えます。
“内部生”のなかでもヒエラルキーがあり、幼稚舎(小学校)出身者が最上位という扱いをされていることを知った美紀は、同じキャンパスにいながら別の世界があることを噛み締めるのでした。
理想のキャンパスライフとは違う現実にうなだれながらも、美紀は大学生活をできるだけ楽しもうと努めます。
しかし家庭の事情で経済的に余裕がなくなり、バイト生活を余儀なくされた美紀はだんだん追い詰められ、大学生活は一年で幕を閉じてしまいます。
その後は高級クラブのホステスなど夜の街を渡り歩くのですが、ある日高級クラブのお客としてやってきたのが、大学の同級生であり、“内部生”の最上位の青木幸一郎だったのでした……。
華子と美紀、まるで対照的なふたりは青木幸一郎という超エリートを介して、不思議なつながりを持ちます。
ふたりは生まれ育った環境こそ真逆であるものの、共通して抱くものがありました。
それは「階級」の意識です。
東京のなかでもヒエラルキーがあるということ。
富裕層のなかには歴史的人物とつながるような大物の家系が確かにあるということ。
そして彼らの生きている世界は非常に狭く、簡単に「よそ者」を受け付けない世界であるということ。
華子は婚活中に、「同じ世界の住人」であることが必須条件だということを痛感します。
華子の馴染みの場所が相手も同じく馴染みの場所であり、ギャップを感じることなく、穏やかな気持ちで過ごしたい。
自分の環境よりもレベルダウンした暮らしには、華子は拒絶してしまうのでした。
そうすると青木はまさに理想の相手なのですが、いざ婚約を進めてみると、自分のなかにどこか違和感が残ります。
後に華子は、それは青木の方も華子を「同じ世界の住人」というステータスだけでしか見ていなかったからだと気づきます。
自分もそう思っていたけれど、話は合うものの心が通じ合うまで深く入り込めない関係は想像以上に苦しく、華子は青木との生活に懊悩するのでした。
一方の美紀は、クラブでの出会いをきっかけに青木と頻繁に会うようになりますが、都合の良い関係であるとわかりながらも会うことをやめられず、そんな自分に懊悩します。
別世界の人間で、これ以上の深い関係にはなれないとわかりながらも、別世界の煌めきに魅了されている自分を隠せないのでした……。
懊悩するふたりは、やがて青木がきっかけで邂逅することになります。
婚約者と愛人のキャットファイトになるのか、はたまたどんでん返しの展開が待っているのか、泥沼化するのか……!?
ぬくぬくと暮らしてきた華子と泥臭く生きてきた美紀を対照的に描きながら、ふたりを引き合わせる物語展開にぞくぞくしながら読みました。
ふたりがどうなるのか最後まで読めず、東京の階級意識のリアルさにも痺れ、そしてラストシーンは意外にも力強くて、最後まで楽しんで読むことができました。
表面上は、本当に位の高い人たちを除けばわたしたちはみんな同じ人間です。
けれど「みんな同じ」なんてことはなく、それぞれのバックグラウンドがあり、そしてそのバッググラウンドをもとに自分の世界を構築していくものです。
華子はきらびやかだけれどごく狭い世界を、
美紀は泥臭いけれど自由な世界をそれぞれ作り、
ないものねだりのように懊悩するのです。
けれど最終的には彼女たちが自分の世界を客観視し、自分らしい世界をつくっていこうと決意していきます。
その姿が力強くて、カッコよくて、深く印象に残りました。
どちらの立場も否定しないフラットな描き方をしていて、その筆力と情報量の多さにも感服しました。
貴族の暮らしってこんな感じなんだぁ、といち庶民のわたしはただただ勉強になりました。笑
この作品は来年に映画化されるようです!
映像になったらよりリアルだろうなぁ〜〜。。
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